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ケモミミシンガー

親愛なる君へ


 やぁ、こないだはお見舞いの言葉と花をありがとう。とても香りの良い美しい花だった。なんていったかな……はな、ハナミズ? だったかな? とにかくありがとう。元気が出たよ。


 ヘリオス=ターレットだ。病院では略称について何も聞かれなかったし、看護士の彼女も別段何も言及はしなかったから広まっていた言葉はやはり私の事ではなかった様だ。


 さて、骨折も治り、無事に退院した私だが、残念ながら病院の計画は頓挫する事になった。


 あの医者の先生が田舎に帰ってしまったのだ。自分の故郷で困っている人を助けたい、ってね。彼女もその考えに賛同して、あの先生についていってしまった。きっと彼女は先生の事を好きだったのだろう。

 まぁ、私が入る余地はなかったのかもしれないな。


 何度目かの失恋に、とぼとぼと街を歩いていると、綺麗な歌声が聞こえてきた。


 どう形容したらよいのだろう?

 心に染み入るような、美しくて、切なくて、そんな胸を打つような歌だった。


 その歌の主を探してみると、街角のある一軒の酒場の前で座り込んだ女性が、弦楽器を弾きながら歌っているのが目に入った。


 もはやそれは運命だった。


 私はその歌声に誘われるように彼女の前にふらふらと歩いていき、歌う彼女をじっと見つめていた。


 小さな耳と大きな巻角、そしてその周りをもこもこの白い体毛が覆って、銀髪の髪を調和するケモミミだった。どこからが体毛でどこからが髪の毛なのかその境界は曖昧ではあるものの、きちんと調和している。

 そしてその角は彼女の可愛さを引き立てていた。


 一生懸命に歌う彼女は、とても情熱的で、しかし、時にクールに、そして何より楽しそうで輝いて見えた。


 私は音楽を解する才能を持ち合わせていないのだが、輝いている彼女を見ていると、それがとてもいい歌なのだろうということくらいはわかる。


 一曲歌い終わって、私以外聴衆もいないのに、彼女へぺこっとお辞儀をした。

 その所作もまた可愛らしくて、思わず頬が緩む。同時に自然と拍手をしてしまっていた。


「ありがとうございました! 次は新曲です! 聞いてください!」


 私の拍手に飛び切りの笑顔を見せた彼女は、続いて別の歌を歌い始めた。


 嬉しそうに歌う彼女を見ながら私は思いを馳せる。


 彼女と共に歩む人生には、必ず歌がついて回る。小鳥のさえずりのような可愛い歌声で朝目覚め、寝る時は彼女の甘く囁くような歌声で夢の中へ。

 歌と彼女と共に歩む人生は、実に変化に富んでいて、そしていつでも明るく楽しく、彼女もまたその時の心情を歌にして私に送ってくれる。愛の歌だ。


 彼女の歌声を聞きながら私は決めたのだ。


 彼女のファンになろう。そしてゆくゆくは彼女と共にデビューして、人生という音楽界を歩んでいくのだ。


 そうと決まれば私も音楽の練習をしなければならない。

 歌の練習をして、彼女とハーモニーを奏でるのだ。


 これから忙しくなるからしばらく手紙を送ることはできないだろうが、君にも私の、いや私達の歌に酔いしれてもらいたい。


 それでは、また


ヘリオス=ターレットより

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