ケモミミナース
親愛なる君へ。
やぁ、先日の助言、本当に救われたよ。
ヘリオス=ターレットだ。エルフの姫君にまで“ヘタレ”と略されるとは思わなかった。どこで聞いたんだろう?
ああ、君の助言どおり、事の成り行きを見守っていたんだ。そうしたら間もなくあの姫と、親である女王がわざわざやってきて謝罪してくれたんだ。
「ヘタレ、って呼んでいい?」
その時、姫君は謝罪と、同時に親愛の証として私をあだ名で呼ぶ事の許可を求めてきた。
長い耳に、エルフ特有の童顔――といってもまだ子供といった年齢のようではあるが――の大きなエメラルドの瞳でまっすぐ見つめてくる。こざっぱりとした瞳と同じ色のショートの髪がさらさらと流れていた。
とても迷ったが、正直に話して名前で呼ぶようにお願いしておいた。私はマゾでもなんでもないので、侮蔑的表現に聞こえてしまう略称を看過できないからだ。
ああ、そうだ。彼女に文通しようと持ちかけられたのだが、正直迷っている。
確かにエルフは亜人の中でも理知的で美しい種族ではあるが、そう、彼女らにふさふさの耳も尻尾もないのだ。まぁ、暇は持て余しているので、文通くらいならよいとは思ってはいる。
さて、そんなこんなで謹慎が解けた私だが、今回医者に厄介になる事になった。
ああ、流行り病とかそういうことではなく、単なる怪我だ。
若い頃はわしもおぬしのような冒険者だったのじゃが、足に矢を受けてしまってな。
足じゃなくて膝だったかな?
とにかく走行していた馬車に足をぶつけてしまい、ポキリといってしまったのだ。
そして担ぎこまれた医者で、私は運命の出会いをする。
その医者は腕がいいと評判の医者だったのだが、その助手にケモミミの看護士がいたのだ。
彼女は手際よく手当てをしてくれて、
「若いんだから、すぐくっつきますよぅ」
と笑ってくれた。その素敵な笑顔だけで私の骨折は見る見る治ってしまう気さえした。
彼女は司書と同じ種族で、けれど体毛は銀色だった。青い髪に銀色の体毛が映える美しさの中に、少し幼さの残る丸い瞳の顔は司書の彼女とは対照的で、元気で明るいといった印象を受ける。それでいて仕事はてきぱきとこなし、笑顔を忘れない強さは見ていてとても魅力的だった。
ああ、寝付けない時など、彼女のふさふさの尻尾で撫でられながら寝かしつけてくれるのは最高だと思った。
私は医者で厄介になっている間、ずっと考えていた。
私の屋敷に病院を併設しよう、と。そこでここの医者と彼女を雇うのだ。
患者は勿論私だけだが、そこにずっと入院していれば、彼女の尻尾で寝かしつけてくれるし、彼女の仕事ぶりを一日中見ていることが出来る。
やがて私と彼女は、人生という長い入院生活に突入するのだ。
ふさふさの尻尾に包まれた、実に柔らかな入院という人生。ああ、実に素晴らしい。
早速ではあるが、病院の建設計画を練らなければならない。
これから忙しくなるからしばらく手紙を送ることはできないだろうが、君にも私の、いや私達の病院で、ふさふさ入院生活を祝福して欲しい。
それでは、また
ヘリオス=ターレットより