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 爆風と閃光が店の中を荒らす。

 嵐が過ぎ去った後には、さっきまで喫茶店だったこの場所にいた人たちの呻き声、舞う粉塵。鼻につく硝煙の匂いと無残な店の内装だけが残された。


「しゅ、周平くん!!」


 手榴弾を見て反射的に瞬間移動テレポートをしていた秘都美ひとみが戻ってきて悲痛な声を上げる。しかし、その声に反応してくれた者は、彼女が望んでいた少年ではなかった。少年ではなくしかも、怒号だった。


「伏せろ!!」


 よくわからないまま、秘都美は地面に這いつくばる。その刹那の後、さらなる爆音が三度、立て続けに轟いた。


「っ!!」


 これだけ場が荒れていれば、瞬間移動テレポートは使えない。そして爆音はまだ続く。魔法以前の兵器に戦々恐々としながらも、秘都美は伏せると同時に条件反射的に張った結界にさらなる魔力を込めた。


 数十秒か、数分か、爆音は止み、あまりにも長かった死と隣り合わせの時間が一応終わった。それでも、彼女は防御用の結界の魔法を解くことなく、あたりの粉塵が舞い落ちるまで静かに待った。

 しばらくしてそれが晴れると、テーブルや椅子、その他もろもろが積み重なった瓦礫の山から、雨城うじょう米雲よねぐもが現れた。傷は負っていない。きっと、彼らも瞬間的に、反射的に、自らを守るための魔法を発動したのだろう。だが、そこに彼の姿はなかった。


「なんで……」

「秘都美ちゃん」

「なんで、周平君を守ってくれなかったの!! あなたたちは、軍人でしょう!! 

 私たちとは違う。私たちを守ってくれるはずの存在。それがなぜ、自分自身だけを守るためだけに魔法を使っているの!!」

「秘都美ちゃん……」


 雨城が同じ言葉しか繰り返すことしかできないのは、目の前で涙を流す少女の訴えがそのとおりであり、また、その彼女自身が自分だけが現場から逃げてしまったことへの罪悪感と、悔しさをその瞳に湛えていたからでもあった。


「青影さん」


 そこで口を開いたのは、さっきまでほとんど口を開くことのなかった米雲であった。


「あなたの言い分はよくわかる。だが、我々も万能ではない。戦うことが得意である者もいれば、諜報が得意なものも、謀略が得意な者もいる。だから、できないこともある。我々が得意とすることは、残念ながら戦闘ではない。あの場で彼を守るために十分な結界を張ることは私にはできない。だから私は自分の身を守った。それが、任務を達成するために必要だと思ったからだ」


 語り掛ける米雲は、ただ、事実を述べているだけで、自分のしなくてはいけないことをしただけで、当たり前で仕方がないことで、それは秘都美にもよくわかっていた。頭の部分では、そのことを分かっていた。

 けれど、理解できても納得できるというわけではない。

 こんなにあっさりと、あっけなく、好きな人と一生分かれるだなんて、そんなことは我慢ならなかった。ありえなかった。何としてでも、黄泉の国に片足を突っ込んででも、彼を連れて帰らなくてはならないと、彼女は本気の本気でそう考えていた。


「それでも、それでも私はあなたを許せない!! 他の何を失ったって、私は周平君を失いたくはなかった!!」

「ま、待ってくれ。まだ、手がないわけではないんだ」

「え?」

「人にはそれぞれ得意なことがあるといっただろう?


 私が得意なのは諜報だ。彼には会った時からちょっとした細工をしている。その細工によると、彼はどうやら死んではいないし、何ならはる子ちゃんも生きている」

 涙を浮かべる秘都美は、さっきまでは少し違った表情を見せて、しかしすぐに口をぎゅっと結んだ。


「どうやってとか、その辺は聞きません。もしかすると、あなた方は私を安心させるためにそう言ってくれているのかもしれません。けど、私は信じます。周平くんも、はる子ちゃんも、助けます。

 私は、私は、これから何をすればいいのですか? どうやったら周平くんを、はる子ちゃんを助けることができますか?」

「ま、まず落ち着いて。秘都美ちゃん。まずは、状況確認からよ。善助、お願い」


 了解といって、善助は、少しあたりを見渡して、自分が持っていたショルダーバッグを見つけると、魔法でそれを引き寄せた。バッグを開けて中の端末を取り出すと、画面を映し出して秘都美に見せた。

 映し出されているのは、ショッピングモール「シラハ」の地図で、動かない青い点が三つ、そして、動いている赤い点が二つ点滅していた。


「分かると思うが、青いほうが我々で、赤いほうが金糸雀かなりあくんと、はる子ちゃんだ。動いているのが非常用の裏道だからまだ大きな騒ぎにはなっていないが、魔法である程度の保護はされているはいえ、ここでの爆発が外に分かるのも時間の問題だろう」

「やっぱり、ばれたら面倒なのですか?」

「面倒だな。こちら側は、混乱の収拾に人を割かなくてはならないし、騒ぎに乗じてよからぬことをたくらむ者がいるかもしれない。だが、まだ外には伝わっていない。まあつまり、ここからは時間との戦いになる」


 秘都美はしっかりとうなずき、善助にさらなる説明を求める。善助は、情報端末を操作して、再び秘都美の方に向ける。秘都美は「えっ!」と驚いて善助と雨城のほうを見る。善助が向けてきた端末には、「シラハ」の下に、半円級をしただだっ広い空間が広がっていた。


「これは、簡単に言うと地下シェルターだ。見ての通り、このショッピングモールの敷地の地下に埋もれているわけなんだが、ここは核弾道を直接食らっても、中で爆発しても大丈夫な頑丈な作りになっているわけなんだ。つまり」

「連中をここに誘い込んで倒す。ですか?」

「まあ、そんなところ」

「ほんとにうまくいくんですか? 連中も、シェルターのことは知っていて、自分たちが袋小路に追いつめられることが無いように想定しているのではないでしょうか?」

「まあ、十中八九そうだろうし、非常用階段は何段階かに 扉を閉めることができるようになっていて、それで誘導することもできるんだけど、なにぶん、生身でコンクリートの壁を破ることができる集団だから、本来ならそれも難しい」

「じゃあ、どうやるんですか!」

「いったでしょう。『本来は』って」


 ここで、雨城が説明を受け継ぐ。


「今日は、緑谷みどりや家の人にも待機してもらっているの。だから、シェルターを遮るためにある壁は、ちょっとやそっとじゃ破れなくなるわ。だから、敵の逃走経路は自然と決められて行って、袋小路に入らざるを得なくなる。そうなったら君の出番かな。戦闘向きの人たちを派遣して、彼らが気を引いているうちに、君は瞬間移動テレポートで周平君とはる子ちゃんを取り戻すんだ。それがあなたにできること。そして、あなたにしかできないことよ」

「わかりました」

「だから、それまでは耐えるの。周平君を信じて」


 秘都美が再び頷くのを見て、善助は再び端末の画面を切り替えた。


「私は、これからセキュリティに干渉して敵の進行を妨害する。行き止まりに追いつめたらまた呼ぶから、それまでは、二人とも負傷者の手当てをしてくれ」

 そういうと、彼は、秘都美の見たことのない速さでキーを叩き始めた。

「まず、私たちにできることをしなくちゃね」

「はい」


 周平のことばかりに気が行って、喫茶店ここに店員や自分たち以外の客がいたことを半ば無視していたことに少なからず恥ずかしさを覚えつつ、秘都美は雨城に従って負傷者の手当てを始めた。



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