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「あ~お腹いっぱい~。よく食べたわぁ〜」

「ラーメン二杯目を買うことになるとは思わなかったんですけど」


 秘都美とはる子の食べっぷりはすさまじく、秘都美はあのオムライスを完食してしまったし、はる子も周平のラーメンの半分くらいをペロリと平らげてしまった。ラーメン半人前で昼食が足りるはずも無く、周平は小さいサイズのラーメンをもう一品追加する羽目になったのだ。


 周平のお財布事情についてはまあ置いておいて、思った以上に昼食を取ってしまった三人は、当初の予定だった映画は取りやめにした。


 お腹がいっぱいになったためか、それとも世話を焼いてくれる二人に出会って安心したためか。食事を終えてしばらく店内を歩いていると、はる子は次第に呂律が回らなくなり、ついにはすやすやと眠ってしまった。そもそも周囲からは認識されていないはる子をつれて映画館に入ることは難しかったし、周平と秘都美の他に頼る人のいない少女をひとりぼっちにしてまで、彼らは映画を見たいとも思っていなかった。


 そんなことがあって、周平と秘都美とお昼寝中の春子の三人は、店内に設けられている公園で休んでいた。店内といってもそれは敷地内を指すわけで、さすがにショッピングモールの建物の中に公園があるわけではない。


 ショッピングモール「シラハ」は、正三角形型の建物の形をしているが、その内側にはサッカー場と野球場が悠々と共存できるであろう広大な敷地があり、通称「中庭」と呼ばれている。

 ただ、当然ながら実際にサッカー場や野球場があるわけでもなく、「シラハ」の建物と同じ正三角形をした「中庭」の敷地は、同じ大きさの正三角形型が四つ入り混むような造りをしている。

 中心の三角形は大きな広場となっており、ここでは、ゲストを招いてのショーやライブができるようなスペースになっている。そして、これに接するほかの三角形は大まかにいうと


 四季折々の草花や、木々が植えられている植物公園的なエリア。

 子供が遊ぶ遊具や広場の置かれた遊び場のエリア。

 家族や友人がくつろぐことのできる憩いの場としてのエリア。


 という、三つのエリアに分けられている。周平と秘都美とお昼の中の春子が休息を取っているのは、このうちの自然公園であった。

 ショッピングモール本体の建物は三階建てであるといってもせいぜいが三十から四十メートルほどのものであるため、この巨大な中庭の日当たりは案外悪くはない。逆に日光を遮るところがない分日差しはきつくなるため、木陰のたくさんある自然公園を選んだのだった。もちろん、春子が眠り始めた地点にもっとも近かったということもあるのだが。周平たちは大きな木の下に、ちょうど木陰になるようにベンチが設置されているのをみつけて、春子を真ん中に挟んで座っていた。


「でも、よくこんなとこ作ったよね~。ショッピングモールに中庭なんてどうかしてるわ」

「確かに、さすが天白家って感じですよね。規模はちっさいですけど植物園もあるみたいですし、映画のかわりに、はる子ちゃん起きたら行ってみますか?」

「ん〜。いいね」


 と、いつもの軽い口調で言っておきながら、秘都美は少し物憂げに、目を伏せた。


「ねえ、シュウくん」

「なんですか?」

「いや……私たちまた結構なことに首突っ込んじゃったかなと思って……」


 秘都美がそう言うのも無理は無い。今二人の間で昼寝しているのは、周りからは見えない女の子なのだ。そして、最初からそうだった訳ではなく、いつからか、あるタイミングでそうさせられたらしい。何らかの魔法的な問題が絡んでいるのは明白だった。


「たぶん、認識阻害系の魔法ですよね。どこに働いてるかはよくわからないですけど」


 もちろん、それははる子にかけられた。または作用している魔法のことだ。


「うん。私たちが気がつけたのは、たまたまよね。ハルちゃんが、私たちの方に興味があったのと、私たちが魔法に敏感だったから? もしそうだったら、案外魔法の効力って弱いのかな?」

「正直、はる子ちゃんが興味あったのは、先輩のオムライスだった気がしますけどね」

「ここでそんな冗談言っても面白くないわよ」


 そう冗談めかして笑って、秘都美はため息をつく。


「しかも、ハルちゃん『さとね』はる子って言ってたわよね。たぶん。『さとね』って『聡音』のことでしょ? 『刻印系統』の名家じゃない」

「ああ、なんか聞いたことありますね」

「なんか珍しいね。周平くんがこの手のこと知ってるのって

「高校のテキストに載ってましたからね。一応俺、主席ですからね。勉強はできますよ」

「いや、テキストって言っても、まだ学校始まって二ヶ月しか経ってないでしょ?『刻印系統』ってそんな前の方に載ってないでしょ」

「中学の時に、高校でやる魔法歴史学は一通り目を通してるので。授業暇だったし」

「…………あっそ」

「その目やめてくださいよ。

 それより、確か、有名な3つの流派があって、それが『平泉』『千戸瀬』『聡音』でしたよね。聡音は確か、空間に影響を与えるかなり大規模な魔法を専門にしていたんですっけ?」

「正解。基本的には結界系の魔法を補助する特化型MMOの開発をしているわ。彼らからすると祭具だけど」


「刻印系統」とは、特定の魔法式をある物質に編み込んでいく魔法の総称で、多くは魔法の発動を補助したり、物体に魔法的な性質を付与したりする。魔法の補助を行うことにおいては、より汎用性に長けたMMOが、開発、普及されたこともあって衰退しているし、後者についても特化型のMMOが類似的な役割を担っているということもあって(例えば、武器であれば武装型MMOがある)現在は昔ほどの勢いはない。けれど、その性質柄、各流派ごとに秘匿とされており、現在でもMMOでの再現が難しいものも存在しており、ある一定の地位は確保している。特に、先の3つの流派は、国内でも最大の勢力を誇り、さらにそのうちでも、「聡音」は強力な空間への干渉と改変。そして復元を武器としていて、「刻印系統」の分野では世界でも三本の指に入ると言われている。


「……やっぱり、関係あるんですかね?」

「うん。あんまり考えたくないけどね」


 魔術師誘拐事件。二人の脳裏に浮かんだワードはやはり、これだった。


「だとしたら、すぐに連絡しないとやばくないですか?」

「でも、そう簡単じゃないでしょ。たぶん。

 大事なのはどうしてハルちゃんを誘拐したのか。そして、どうして一人にさせているのか。その動機がわからない」

「まあ、そうですね。はる子ちゃんは、知らない間にここに来たって言ってるし、何者かがここまではる子ちゃんを移動させて、認識阻害の魔法をかけて、解放したってことになりますもんね……」


 問題はそこにある。けれど、二人にその答えがわかるはずもない。そもそも、誘拐だと決まったわけですらない。


「とりあえず、会長に連絡しときますか?」


 ここで警察を頼らないのは、本当に誘拐かどうかわからないこと。また、警察だと迅速に対処できないのではないかということ。そして一番大きい理由はここが天白家の管理する土地であることだった。秘都美もそれがわかっているので何故とは問わない。


「考えても埒があかないのはそうだしね。

 でもどうせするなら、こっちでやって」


 そう言って秘都美は、彼女がいつも使っておるのとは別の端末を取り出して、周平に渡した。


「本家の方に繋がってる秘匿回線のうちの、先輩に繋がってるやつ。もしもの時のために貸してもらってたんだ。あんまり使いたくなかったけど」

「じゃあ、先輩が使えばいいのに」

「私はいいの〜。私が言うより周平くんが言ったほうが効果があるわけよ。だからよろしく」

「は、はあ……」


 周平は測りかねた顔をして、それでも連絡先から氷華の情報を引き出して、電話をかけた。

 程なくして、電話は繋がった。


「もしもし秘都美。珍しいわね。あなたがこの回線を使うなんて」

「あ、どうもです。すみません青影先輩でなくって」


 周平は冗談のつもりで言ったのだが、氷華の方は突然のことに驚きを隠せなかったらしく、若干の間が生まれたが、それでも先輩の威厳を保つためか、何事もなかったかのように話し始めた。


「周平くんか。どうしたの? もしかして、秘都美に何かあったの?」

「いや、そういうわけではなくって、今ちょっと、不思議な女の子と一緒にいるんですけど」

「不思議な女の子?」

「ええ、お認識阻害系の魔法をかけられているのか、僕と青影先輩以外からは見えないらしくって、名前は『聡音はる子』っていうんですけど」

「............」


 周平がいい終わっても、今度は本当に無言で、端末越しにピリッとした空気が伝わってくるようだった。

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