表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/14

11

 ついに、その時が来た。

 彼が扱う中で最も難易度の高い、複雑な魔法式が瞬時に組み上げられ、そこに、ありたっけの魔力が吸い込まれていく。今、自分が使える中で最も強力な魔法。現状、一発しか打つことのできない大技は、周平の魔力をごっそり持って行った。


 結界が砕かれる。

 敵が振りかぶる。

 刃が突き落とされる。


 その一挙一動が、まるでスロー再生のように進むのを正面から見つめながら、周平はまだ動く右腕を、突き出していた。

 魔法の詠唱を最大限に短縮して、さらには単一の動作をその象徴として取り入れることで、長い、長い詠唱を経て発動されるはずの魔法が、この一動作をキーにして繰り出される。

 振り下ろされる大剣と、右腕が接触する瞬間、術者である周平自身も、身が焦げるような閃光が解き放たれた。


神解き(カミトキ)


 声なき声で、周平はそう言う。

 エネルギーの奔流が視界を灼く。轟音が、地響きのように地下ドームを揺らす。

 その攻撃対象となった敵兵は、当然のように灰となった。

 結果だけ見れば、あっけのない最期。

 しかし、それだけの威力だったのだ。


「魔力……使いすぎた……」


 地面に突っ伏したまま、体はピクリとも動かない。

 さっきの魔法の衝撃で、地下ドームを薄暗く照らしていた照明さえも完全に消えてしまった。いまここは、信じられないくらい真っ暗だった。この上では、多くの人が買い物を楽しんでいる。


「このまま誰も助けが来ねぇとか、無いよな……」


 声ならぬ声が、暗闇に漏れた。


  ◇◆◇  ◇◆◇  ◇◆◇

 

 視界がポッと明るくなる。

 小さな灯。が、急ぎ足で近づいてくる。


「しゅ、周平くん!!」


 周平はそれを目だけで追った。


「だ、大丈夫なの?? しっかりしてよ!!」


 普通じゃありえないくらいにオドオドする彼女を見て、周平は静かに目を閉じた。


  ◇◆◇  ◇◆◇  ◇◆◇


 振動を感じて、周平は目を開けた。

 一番初めに目に入ったのは、人見の安心した顔。

 次に目に入ったのは、雨城、米雲。そして、氷華と駿太郎だった。


「どこ?」


 見知った人たちに囲まれて、自分がある程度安全なところにいるということがわかると、周平は、素直な疑問を口にした。敵と戦って、追いつめられて、神解き(カミトキ)を放ったところまでは覚えている。だけど、それからあとは、よく覚えていない。秘都美の声が、したかもしれないなということくらいだ。


「お店の医務室だよ。すぐ起きてくれてよかった」


 そっか。と言って起き上がろうとしたけれど、全身に力が入らない。


「……俺は、どのくらい眠ってた?」

「一時間くらいかな。だからまだ、動いちゃだめだよ」

「動きたくても動けない。魔力使いすぎて、グッタリだよ」

「まったく……」


 大きな、冷たい溜息。

 大きな後悔の思いをその目に宿して、秘都美はそこにいた。これは、彼女が周平をデートに誘ってしまったから起きた事件。自分さえ我慢していれば、防げたかも知れないのに。

 その思いが、秘都美の表情を一層暗くしていた。


「周平君、またムリをさせてしまってごめんなさい」


 そんな秘都美を放っておけなかったからか、今度は氷華が頭を下げた。


「い、いいですよ。勝手に戦ったのは俺だし」

「それでも、私があなたと敵の接点を言わなければ、こんなことにはならなかった。そもそも、あなたにはる子ちゃんを連れて行かせていなければ」

「あ、そうだ」


 氷華の言葉を遮って、周平が声を上げる。


「はる子ちゃんは、どうなったの??」


 自分勝手な詫びよりも、周平に任せた仕事の結果について知ってもらうべきだと考えて、氷華は素直にはる子のことについて話すことにした。周平としても、氷華の詫びは、見当違いなものだとおもっていたので、彼女が頷いてくれてほっとした。


「周平くんが預けた後、秘都美はちゃんと私たちの元に連れてきてくれました。そのときには、はる子ちゃんも私たちに認知できるようになっていました。今は、両親と一緒に、安全なところに移ってもらっています」

「そっか。そりゃよかった」


 はる子が無事であることに安堵したシュウへは、もう一つの件についても質問した。


「侵入者って言うかなんていうか、はる子ちゃんを掠おうとしていた集団はどうなったんですか?」


 しかし、これについては五人が五人友顔をしかめた。


「まあ、結果的には、その勢力についてはほぼ討伐完了と言ったところね。周平君が相手をしたところ以外にも、二つほど工作員と思われる集団が動いていて、ほとんど同時にすべての方面で殲滅作戦が開始されていたわ。周平君の件を含めて、二つは終了。もう一つも、後は掃討戦と言ったところね。奈良の朝日や仙台の氷川もでてきて、全国の強力な部隊を動員しての捜査と戦いだったけど、なんとか持ちこたえたわ」

「だけど、周平君があそこまで無理する必要は全然無かったんだからね!!」

「そうだ。あの場面は、俺たちに任せてくれても、いや、任せる場面だった。結果的には、お前の辛勝で終ったが、結果お前はズタボロだ」

「いろいろ言いたいですけど、今はそれを言う元気も無いです」


 周平のその発言について、五人はいろいろと言いたいことがあるようだったが、周平の体力が普段では有り得ないほど消耗しているのも事実で、今だけは、そのことについては不問にした。


「だけど、生徒会長として、あそこまでの規模での魔法の無断使用は看過できません。緑谷くんが結果を張っていてくれていなかったら、ショッピングモール全体が揺れて、最悪損傷。大パニックになっていたかもしれないんだから。元気になったらちゃんと反省文を書いてもらいますからね」

「本当だったら警察行きだからな。反省文ですんで良かったと思うべきだぞ」


 反省文めんどくさいと考えていた矢先に、駿太郎からごもっともな言葉を受けて、周平は居心地悪そうに苦笑いを浮かべる。


「それじゃあ、私たちは出て行きますから、安静にしておいてくださいね」

「無理するなよ」

「了解です」


 結局、雨城と米雲は何も言わなかったが、みんなのお見舞いはこれで終ったようだった。


「先輩たちは言わなかったけど、周平君はこれから専門の医療機関に移されて、審査を受けることになってるから。雨城さんたちの簡易的な診断だと、何も異常は無かったけど、念のためね」

「わかった。やっぱ、また無茶やちゃったんだな」

「そうだよ!! ほんっとに、周平君は私に心配ばっかりかけちゃって。いきなりはる子ちゃん押しつけてきて、受け取らないわけにはいかないし。周平君の目を見て、たぶん勝算があるんだろうな。だから立ち向かっていくんだろうな。って思ったら、こんなにぼろぼろになって帰ってくるし。戦闘始まったら、いきなり雷流乱舞使うから、瞬間移動テレポートでそっち側に行くのも難しくなって、助けにも行けれなかったしもう……ホント、無茶苦茶だよ!!」


 幸いにして、この部屋は個室で、二人以外は誰もいない。少しくらい怒鳴っても、誰かにこの会話を聞かれることはない、だからといって、秘都美がそんなことまで考えてこんなことを言っているはずもない。彼女は彼女で、はち切れんばかりの思いを抱えていた。


「……また、一緒にいられなかった」

「先輩?」

「奈良の時。私は途中で倒れちゃって、その生で周平君は暴走して、結果的には敵は倒せたけど、もう少しで周平君は周平君じゃ無くなってた。今日だって、ちょっと間違えたら死んじゃうような、と言うより死ぬ確率の方が高いような相手と戦って、なんとかかったけど、ボロボロで……どっちも、私は周平君に何もしてあげられなかった。私も一緒に戦いたかったのに、何もできなかった。今日の戦いも、さっきは雷が危ないと思ったって言ったけど、危険を覚悟すれば瞬間移動テレポートできたかもしれなかったのにやらなかった。私は、何もできなかった。周平君のために、何もできなかった」

「そんなことは、無いですよ」

「そんなことあるんだよ。

 でもね、だからね。今は、一緒にいさせて。いま、もし何かがあったときは、私が周平君を守るからね」


 周平にも、いろいろ言いたいことはあった。

 奈良で暴走したきっかけは、たしかに秘都美にあったけれど、いつまで持つかも知れないあの状況下で周平が暴走したのはプラスに働いたし、それを止めてくれたのも秘都美だった。彼女には何度化言っているけれど、あの暴走の後、周平の魔力の保有量は間違いなく多くなった。


 それに今回だって、秘都美が確実にはる子を戦闘空間の外に出してくれたと分かっていたから、最後の最後に神解き(カミトキ)と言う大技が使えたのだ。

 抱けど今は、秘都美の好きなようにさせようと思った。そうするほか無いといった方が良いかもしれない。そのあたりのことを秘都美に言って聞かせられるほど、今の彼に体力は残っていなかった。


「じゃあ先輩。俺、もうちょっと寝ますね……俺のこと頼みましたよ?」

「任せて」


 秘都美の笑顔を見て、周平は重たくて仕方が無かった瞼をやっと閉じた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ