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 はる子は秘都美に渡した。どうせここなら暴れたって天白先輩が何とかしてくれるだろう。もう、何かを心配する必要はない。

 周平は敵に向かって走りながら、左手にはめたブレスレット型に触れた。スイッチは、秘都美が拘束を解いた時には入れてある。

 ほとんどタイムラグなく、魔法が発動した。


「雷流乱舞」


 周囲に高圧電流をまき散らす、単対多数を想定した攻撃魔法。威力こそ対象を一本化した攻撃に劣るものの、「雷」という属性の持つエネルギーは、人間を戦闘不能に貶めるのに十分な力をもつ。バトルマッチの予選では、これだけですべての選手を沈めた。だが、今は相手の格が違う。奇襲じみた全体攻撃も、一瞬相手を怯ませる程度にしかならなかった。


 その怯みに漬け込んで、今度は進行方向に向かって真っすぐ電撃を放つ。それを避けた敵の真ん中を、周囲に電流をまき散らしながら駆け抜けた。振り替えって相対し、改めて敵の数を確認する。数は十。もし、氷華の言葉通りで、かつて周平が倒した敵の残党なのであれば、もっと数は多いはずだ。これで全部じゃない。この店の中か、それとも外か、この近くにいるのか、どこにいるのかわからないけれど、まだどこかにいるはずだ。

 だが、今はとにかく、目の前の敵に集中する必要がある。

 たとえ一対一サシだったとしてもヤバいやつらばかり。雷流乱舞も猫だまし以上の効果は得られない。


「まあ、関係ないけどな。電鎧」


 周りに電流の鎧を纏い。手には雷の剣を握る。前と同じならば、相手は遠距離というよりは、接近戦に特化している。それなら、多対一でもやりようはある。電流の鎧は簡単には敵を近づけない。雷の剣は周平の意思によって伸縮自在だ。


「迅雷」


 電鎧が身を守ることに重点を置く雷系統の魔法であれば、迅雷は身体の速さと威力を底上げする攻めの魔法だ。発動と同時に発せられた何かがはじける音と共に、周平は敵に突進する。音速に肉薄する、常人では術者本人ですら認識の齟齬を生む速さ。しかし、待ち構える敵も、尋常の者ではない。周平が電流を身にまとった時点で、彼らは自分たちの魔法を発動していた。すでに、赤い妖気オーラが彼らから発せられている。身構えた敵に対して、周平の突進はこれでもかというほどにまっすぐだった。


 直進して一番前の敵を横薙ぎに切る、それを妖気オーラを纏った腕できれいに流されると、逆に反撃に来た回し蹴りに対しては紙一重で避け、さらに次に正面に来た敵に流れるように雷剣を向けた。

 前後上下左右に気を配りながら、常に立ち位置を移動させ、拳と蹴りの嵐を電鎧と雷剣で受け止める。互いの位置は一秒に満たぬ間に何度も交錯、入れ替わり、そして、ときに全体を雷電が覆う。強者同士が打ち合う見事な乱舞は、もしここに観る者がいれば一瞬のみ、そのものを魅了することだろう。


 だが、彼もすぐに気が付く、そこで行われているのが殺し合いであると。魔法によるある種の超絶技巧と一斉攻撃を、身体能力と才気センスのみで実現する天才少年と、彼に隊の長でありながら、父でもある人を殺された部下たちとの復讐劇。それはどうしようもなく無益な戦いで、それをどちらも了解していた。それでもなお、守られる立場である周平は、わざわざ秘都美の元に返ることなく地下ドームに残った。彼らの復讐に付き合ってやりたかったから。そう、付き合って()()()()()()からだ。


 天白家の人に任せておいても、いずれこの人たちは全滅するだろうけど、でも、どうせ死ぬのであれば、自分たちの思い通りに死ぬべきだろう。この人たちは、俺と戦ってやられるべきだ、と。ある意味でなく高慢で、一国の軍を馬鹿にしたその考えが、今、周平が戦う理由だった。だが一方で、それが可能であるという判断が周平にできるくらいに、ここにいる十人は正直強くなかった。強くないと周平は感じた。


 かわるがわるに攻撃してくる敵の一人が後衛に戻ったすきに、周平は手にした雷剣を伸ばし、鞭のようにしならせて降りぬく。電流に焼かれた腕が転がり、鮮血が滴る。


「雷虎」


 激痛で気が散ったその兵にめがけ、雷が飛ぶ。一直線に心臓へと向かった一本の雷は、彼を貫通して防具ごと黒く焦がす。だが、それに動じることもなく、攻撃に転じて隙のできた周平に、拳が飛んできた。それを、先ほどの刀を鞭のように使って弾き、いったん離れて距離をとる。


「てめえらは、もう死んでんだよ……」


 二つの雷剣を合わせて一本にする。出来上がったのは剣ではなく、巨大な鞭。地下ドーム全体をその光だけで照らすに十分なエネルギー量。当たれば即死だということを本能で察することができるほどに、そこに込められた魔力は、一介の高校生が普通に扱えるような量ではない。


「死んでるやつが、生きてる人間にかてるとおもうなぁあああああ!!!!」


 ぶんっ。という音ではなく、音と表現するのもおこがましい衝撃波が地下ドームに轟く。瞬時に危険を悟って、強めた妖気オーラの上から、さらに防御魔法を張った者以外、暴力の嵐が通り過ぎた後立っているものはいない。

 そして、そんな強者は、十人のうち、たった一人だけだった。


 妖気オーラは、赤ではなく、黒に変わっている。

 対面すればわかる。そいつは強いぞと。自分の感覚が見誤っていたと、素直に認めぜるを得ないほど、あの十人の中のだれに、これほどまでに強力な気配を出す者がいただろうかと不思議に思うほどだった。いや、強力というよりかは、邪険とか、禍々しいとか、そういった類の者に感じた。なにか、破ってはいけないものを破ってしまったかのような。見てはいけないものを見てしまったかのような……そんなものを見ているような気がした。

 その男の右手から、大剣が出現する。黒い刀身に、周平の電流が映っている。


「まあ、わけわかんねぇけど関係ぇねえや。いくぜ!!」


 鞭を再び双剣に代えて、一瞬で間合いを詰めると右手の剣を振りぬく。それを大剣で止められると、今度は左手の剣を敵に刺しにいく。それが小手で跳ね返され、ガードに使われていた大剣が振り回されて、横薙ぎに迫る。回避が不可能と悟ると、両手の雷剣でそれを防ぐ。

 多いな衝撃が来たと思うと、周平の体は吹き飛ばされた。

 そこからさらに敵の追撃。

 黒い妖気オーラを纏った敵は、人とは思えない速さで動き、周平の落下点に回り込んでから大剣を振りかぶる。


「んやろ!!」


 その姿は見えなくとも、自身に迫る死の気配だけで、周平は雷撃を地面に打ち込んで無理矢理に進路を変える。空中で翻り、着地を果たす。だが、そこにもすでに剣戟が迫っていた。

 着地から一息もつかないうちに大剣が振られた。今度は、避けきれなかった。防ぐこともできなかった。電流の鎧でその剣筋こそ逸らすことができたけれど、大剣の刃が周平の左頬を掠めた。


「クソ!」


 返ってくる剣を、今度は危なげなく躱して距離をとる。

 強い。強かった。殺し合いに付き合ってやるだなんて、大それたことを考えたもんだと自分が腹立たしくなる。


 だけど、負けるわけにはいかない。

 それが自分で蒔いた種ならなおさらだ。


 本気でいかなければ、自分が死んでしまう。

 剣を一本にまとめて地面を踏みしめ、一気に蹴り放つ。異常な加速に体が軋むがお構いなしに敵へと突っ込む。

 一番最初と同じように、敵は大剣を盾のように使ってガードする。だが、それに向かって思いっきり剣を押し込んだ。


「うおおおおおお!!」


 勢いに押されて態勢が崩れるのを逃すことなく、周平は剣戟を繰り出す。相手も負けることなく、大剣を自在に操って防ぎ、そして時に攻め手を出す。

 切って、躱して、切って、受けて……目にもとまらぬ速さで繰り出される攻撃を、互いに受け、いなしながら、攻防が続く。大きな傷はなかったけれど、互いに傷が増えてきていた。


 だが、大剣の上段付きを受けたとき、明らかに異変が起きた。

 グラッと、視界が揺れる。体が重い。次の攻撃が来るとわかっているのに、体が思うように動かない。

 大剣の横薙ぎを、周平は雷剣を伸ばすことで対応するが、刃が届かずとも威力までを受け止めるには至らない。碌な受け身をとることもかなわず、飛ばされた方向の壁に思いっきりぶつかる。


「グハッ!!」


 口の中が鉄の味で覆いつくされる。朦朧とする意識の中で、とっさに防御結界を張る。その次の瞬間に、結界を激しい攻撃が襲っていた。


(クッソ、呪いの類か? 条件はどうせあの剣に傷つけられることだなクソ。結界もじき壊れる。このままじゃジリ貧じゃねぇか)


 目の前で。大剣を振るって結界を壊そうとする敵を見つめる。あの剣が自分を切り裂いたら、彼の復讐は終わりを告げるのだろうか。いや、きっとそんなことはない。復讐に終わりはない。


「だったら、負けられねぇもんな……」


 もう体は動かない。勝負は、結界が壊れたとき。そこで一発ぶちかます。

 だが、準備はできない。結界が壊れてから、敵がとどめを刺しに来るまでの一瞬。その間に勝負をつける。

 つけなければ、その時は……。

 周平は、自然と、拳を固めた。


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