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プロローグ

 久しぶりの連載はじめました。

 ゆっくりやっていくのでどうぞよろしくお願い致します。

 奈良から無事に戻り、中間テストも終えたある日の昼休み。周平たち御一行――正確には、周平、秘都美、涼稀、氷華、真利奈、紫乃の六人。は、いつものように生徒会議室でお昼ご飯を食べていた。コの字型に配置されている机の片側には、周平が秘都美と氷華に挟まれて座り、反対側には真利奈、涼稀、紫乃が座っている。


 一か月前まではココには居なかった紫乃は、風紀委員に誘われているため、取りあえず今の風紀委員長である真利奈との対面のために昼食には毎度お邪魔している。というのは建前で、実際には涼稀とご飯を食べるためにわざわざ生徒会議室に足を運んでいるた。正面切って二人で食事ができるほど、彼女の精神メンタルは強くなかったし、時々現副会長の二人なんかも顔を見せることがあるので、風紀委員に入った後で連携することもあるであろう生徒会の面々にも顔を覚えてもらえるため、正当な理由で涼稀と一緒に入れることと、あわせ、紫乃にとっては都合の良い場所だった。


 紫乃と涼稀が静かに弁当を突っついている反対側では、青髪の美女が自分の唐揚げを周平の口元に運んで「あ~ん」とか言っていたりして、胸焼けがしないわけでもなかったけれど。


 そして、その青髪美女から周平を挟んで反対側に座っている清楚なお姉さんが苦い顔をしているのを、コの字の反対側で同級生の風紀委員長が二ヤつきながら見ている、というのが最近の昼食の構図なわけなのだが、結局唐揚げを口に押し込まれた周平が、それを飲み込んだ後に珍しく自分から口を開いた。


「そういえば、最近また誰か誘拐されましたよね」


 その一言は、和んだ甘ったるい空気をわりと簡単にぶち壊せるくらいの破壊力を持っていた。当然それにはある程度の理由があって、


「どう考えても異常ですよね。魔法関連の誘拐事件が連続で起こるって」


 という、彼、彼女らにとっては他人事ではない事件だった。現代日本において「誘拐」という犯罪は、稀に見る事件だ。監視カメラの数や精度は、二十一世紀前半とは比べ物にならないほど増え、向上しているし、何より魔法という強大な技術が犯罪の取り締まりに大きな役割を果たしていた。


「この間の奈良の事件があってから、なりを潜めてた奴らがチョオチョロと動き出したからな」


 どうせすぐに潰されるのにな。と、男勝りに話すのは風紀委員長の田邊真利奈その人だった。たしかに、事件の大半は誘拐されたという情報が入った数時間後には解決している。がしかし、やはり事件の数があまりにも多く、ちまたでは大きな組織が裏で糸を引いているのではないかという話まで出てきている。出所が不明ゆえに確信度の低い話でもあるが。


「それよりさぁ、周平くん」

「なに?」


 ただ、そんなことよりも、周平にとっては次の秘都美の発言の方が爆弾だった。


「そろそろ、デートに連れていってよ?」


 周平は口の中に入れたものを吹き出しそうになるのをやっとの事でこらえ、それが収まると、真顔になって秘都美のお願いを一蹴した。


「忙しいから無理です」


 しかし、いつもはぐちぐちネチネチ言いながらも、秘都美はこの一言で要求を引き下げてくれていたのだが、今回はどうもそうはいかないようであった。


「なんでよ~。たまにはいいじゃん!! 周平くんのケチ!!」


 そういって子どものように、否。幼稚園児のように駄々をこねる秘都美に、周平は苦い顔をして返答する。


「だって、先輩と外に出たらろくな事ないですもん」


 周平は一度、秘都美の誘いに乗って近くの遊園地に遊びに行ったことがある。その時はその時でいい迷惑というか、例の「イチャイチャ」の相手に半日以上突き合せれたわけなのだが、周平もここまではいつも通りだと思って割り切っていたし、どうせ誰の眼もないのだからと思って彼なりに楽しんでいた。けれども、どうやら同じ学校の生徒がそこに居合わせていたようで(周平個人としては、涼稀だったのではないか疑っている)それからの数週間は、このデートに対する冷やかしをこれでもかというほど受けていた。


 そのことが、やっと下火になってきたというのに、周平自ら面倒事を引き起こしたいとは思うはずがなかった。


「も~、いいじゃん。いこうよ~」

「そんなこと言われても……それに最近物騒じゃないですか。誘拐されたりしたらどうするんですか?」

「だって、その時は周平くんが助けに来てくれるでしょ?

 ねーねーだからいこうよーーー」


 最近になって余計に退行しているように思われる秘都美を白い目でみながら、周平はどうしたものかと考えていた。というのも、確かにこの上ない面倒事ではあるけれども、最近彼が秘都美の要求を片っ端から断っていることも事実だったかだ。たとえそこに正当な理由があったとしても、やはり周平にとって後ろめたい部分はあった。


「まあ、いいんじゃない周平? せっかく()()()()()()()付き合ったんだからたまにはかまってあげないと」


 涼稀はこれ以上にないくらい楽しそうに、ちゃちゃを入れる。


「いいよなぁ。お前は楽しそうにみてるだけだからなァ」

「まぁね~。でも、周平がひと姉にかまってあげてないのは事実じゃん?」


 生徒会執行部の仕事が本格的にスタートし――具体的には、生徒総会のとりまとめ。続いて中間テストに入ってしまったことで、周平が秘都美と一緒にいる時間は少なくなっていた。クラスどころか学年も違う秘都美と顔を合わせるのは、この昼休みくらいであり、恋人らしいことはほとんどしていなかった。


(恋人ねぇ……)


 先の奈良での大激戦ののち、秘都美に告白した場面が脳裏をよぎる。


「周平、何ぼーとしんてんの? その卵焼き、いらないならおれがもらうよ?」


 とかいって、いつの間にか目の前にいて伸びてきた涼稀の割り箸に対し、周平は一瞥しただけで正確に雷撃を発して吹き飛ばした。


 「あぁ……」と、力なくつぶやく涼稀をほっておいて、周平は一つ、大きなため息とともに大きな決断をした。


「先輩」

「ん? なに?」

「日曜、暇ですか」


 その問いかけに、秘都美は周平の予想通りの反応を返した。

 すなわち。

 キラキラと輝くような、満面の笑みで頷いた。

 これが今回の、少し長くなる話の始まりだった。


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