八十五巻目 みきみき
「みきみき」
とつぜん犬が発したこの言葉は、一体どういう意味なのだろうか。“みきみき”もしこの言葉が、私の名前である美希を続けて二回呼んであだ名化したものだったら私はどう反応したほうがいいのだろうかな? 今まで唯一“みきみき”と私の事を呼んでいたのは凛ぐらいだった。もしかしたら、犬がいつも私が無視しているときに言っていたのかもしれないけれども、もちろん無視していたから私にとっては今突然“みきみき”と呼びだしたのかと思ったわけだ。まぁ、どうでもいいんだけれども。
「ねぇ? 聞いてる?」
やっぱり“みきみき”は私のことだったようだ。むしろ私のことじゃなかったら一体何だというのだろうかね? 美味しさを表現する言葉かな? もしくはくしゃみとか咳とかそんな感じの生理現象だろうか?
私は犬の問いかけに対して、「まぁ、聞いているっていったら聞いているのかな?」と曖昧な答えを返した。すると、犬は頬をぷくーっと膨らましてなんだか不満げな顔をして「もおー!」と牛のような鳴き声をした。
犬から牛に変わってしまったのかと思うと、ちょっとばかり可笑しいと思ったけれども、そこらへんをずっと考え続けていても何も生まれないことに気づき、私は犬か牛かどっちか分からない生物に対してアクションを起こしてみた。
そのアクションとは、一度咳ばらいをした後「なにか話があるの?」と聞く単純なアクションだ。
すると、犬が急にしおらしくなり、呼吸も落ち着き静かになった。ちょっと怖いな。
そして、頬をポリポリとしながら「変なことを聞くんだけどさ・・・」と少しためながら私に聞いてくる。重要なことを話していないので、私はとっさに「変なこと?」とすぐに言い返した。
すると犬は、机の上に置いてあった水を(私の水)一気飲みして、ふぅ・・・と息をもらして再度呼吸を整えてこう言ってきた。
「本当に変なことだけど、私は変人じゃないからね!」
「分かったわよ!」
全く、何だこの会話は?
今度は犬がしっかりとした深呼吸をして今度こそ重要な話をするのだった。
この話は、私にとって思いもしないような話だった。なぜなら、何の脈絡もなくそのこと言ってきたもんだからもう、なんかすごいよね。
落ち着いた声のトーンで犬は話をする。
「ねぇ・・・美希。もしかして、過去から来た人なの?」




