八十四巻目 味、量、質
犬が少し渋い顔をして話を始めようとした、その時だった。
「失礼しいたしま~す」
「ん?」
声のほうに振り向くと、そこには美味しそうな香りを漂わせているカレーを持ってきて、私たちに尊敬に値するほどのつくり笑顔を見せてくるではないか。カレーの代金を払って、これだけのサービスを受けることが出来るなら、メイド喫茶というのもいいものなのかもしれないな。
「え~・・・カレーライスのお客様は・・・」
「あっ、そこのツンデレです!」
だれが、ツンデレだ。
「では、ライスカレーです!」
「あっ、ありがとうございま~す」
あえて犬やメイドに聞きはしなかったけれども、カレーライスとライスカレーに違いがあるのかはものすごい疑問に思った。ただ、本当にどうでも良かったからそんなことを思ってしまったこともなんだか後悔してしまった。
「それではごゆっくりお過ごしください!」
メイドはそういうと奥へと下がっていった。あのつくり笑顔はどうやって作っているのだろうかな? 一回ここで働いてみようかな? 凛は許してくれないと思うけれども。
水を一度口に含み、口の中に水気を持たせた。犬がさっき何かを言おうとしていたから、もしかしたら私がその犬が言ったことに対して、何かしらの答えを言わなければならないかもしれないからだ。答えを言う時に、口がパサパサしていたらスムーズに答えを言うことが出来ない。しっかりとした答えを求めているときに言葉を噛んでしまったら、ものすごく恥ずかしいし、この犬のことだからもしかしたらスタッフとかメンバーとかに言いふらすかもしれないからだ・・・。恐ろしい犬だ。
「何考えてるの、美希?」
「へっ?」
「早く食べようよ! 冷めたら、もったいないじゃん!」
あぁ・・・私の考えが浅はかだった。この犬にそこまでのことを求めた私は、本当に馬鹿だ。
食べ物が目の前にあるのに、この犬が話し始めるわけがないじゃないか。なんで、そこに気づかなかったのだろうかな?
――――
「美味しい・・・」
思わず言葉が出てしまった。
涙は出ることはなかったけれども、それにしてもこのカレーは美味しい。美味しい以上に表現できる言葉がないくらいだ。むしろ、表現できる言葉があるのならば教えてほしい。
まぁ、教えてくれたところでそれはこのカレーの美味しさを表現する蛇足にしか過ぎないんだけれどもな。
ゆったりとカレーを味わいながら食べていく。程よい辛味が私の舌を刺激して食欲を増進い。
味、量、質。この三つが今まで食べた料理の中で一番満点に近い。というか、満点だろう。
犬のほうを見てみると、動物的な食べ方ではないにしろ犬のような食べ方(もちろん犬食いではなく、何というか・・・その・・・かわいい犬?)で急いで食べている。口元に米が一粒ついているじゃないか。まったく。もう少し味わって食べてほしいぐらいだ。
次回から、少し矛盾(というか、言葉の変更)があるので、そこらへんを注意しながら読んでいってください。
お願いします!




