八十三巻目 裏ボスが務まるかはまた別の話だけれども
――――
「で、さぁ」
机に運ばれてきた水をゆったりと飲んでいると、犬が急に話し始めてきた。今までのような、突然急にたくさん話し始めたというわけでは無かったので、驚くことはなかったけれども、犬にしては静かな声だったのでちょっとばかり不思議な感覚が私を支配した。
だけれども、その不思議な感覚というものは不快なものでは無くてとてつもなく快なもので、いつもこれぐらいの声のトーンで話してくれればいいのだけれどもな・・・。
と、おもっていたけれども、次第に犬の呼吸が荒くなっていき、ついには「ふんふん」としっかりと音が聞こえるまでの呼吸となった。はっきり言って怖いぐらいだ。
だけれども私としてはこの呼吸の荒い犬の相手はしたくないわけだ(面倒だから)。だけれども、この席には私と彼女二人しかいないわけだ。そして、店の中には私たち以外にも数人のお客さんでにぎわっているわけだ。つまり、彼女がなにか変な行動を取ったり、変な言動を行った瞬間に、私は彼女と同類に見られ、私自身が犬と同じものとして扱われてしまうのだ。アイドルという職業柄、他人から見られることもあり良くも悪くも言われることが多いが、自分の中である程度信念を立てているから、悪く言われても愛想笑いができるんだ。その信念というのが、人であり続けるという信念だ。その信念が今、彼女の暴走によって壊されようとしているのだ。これを止めなくては、私の今後に、のちのちの評判にかかわってしまう。
止めれるのは、私一人しかいない。
カレーが来るまでの間、しっかりと犬の世話をしなくては!
・・・そんな風に、改めて決意を表して犬のほうを見ると犬はなぜだか私のほうをキョトンとした顔で見つめているではないか。そんなに見つめられると、少し恥ずかしいではないか・・・。
「あっ! 美希のお顔真っ赤かになった!」
犬が馬鹿みたいに笑う。恥ずかしぎるよ・・・もう・・・・・・。
「それでね・・・」
ようやくまた、犬が話を始めた。
※※※※
「新時代を切り開く我々には、解消しなければならない懸案が多々ある。その懸案の中には、比較的どうでもいいものもあるし、今すぐに解消しなければならないこともある。今回お話したいのは、皆さんにとってはまだ夢話のようなことであります。しかし、新時代を切り開く我々にとってはとてつもなく重要なお話です」
テレビに映っているのは、がたいがしっかりとしていて髭をたくさんたくわえているいわゆる、偉い人だろう。笑顔が決まりきった笑顔だというのは言うまでもないが、その笑顔にはどこか恐怖を感じる。きっと自分以外にも、このテレビを見ている人であれば、誰もが感じることが出来ると思う。なぜなら、空気が、この人から流れ出る空気がまさしく、邪悪なのだ。ゲームで言ったところの裏ボス的な感じだろう(まぁ、こんなにも堂々と表に出てくる人間に、裏ボスが務まるかはまた別の話だけれども)
※※※※




