八巻目 暇すぎる
筆をくるくるとしたことはなかったが、この時代のボールペンは非常にくるくるとしやすい。十年ぐらい前にはこのくるくるが流行したそうだが、今では全く耳にすることがないらしい。だけれども、今この時代に来たばかりの俺にとっては、とてつもなく楽しい遊びの一つだ。単なる暇つぶしではなく、手先の技術の向上や、まわすことを頭で考える、技の習得。これは運動なのだ。これは、手先の運動なのだ。もし、過去の時代に戻ることができたのならば、筆まわしなるものをはやらしたいと思う。家臣たちはおろか下々のものにも筆を配給して、手先の技術を鍛えさせたいと思う。そうすれば戦闘技術が向上して尾張の国はもっと強い国になれるだろう。まぁ、尾張の国が俺が戻った時にあればの話だけどもな。
今俺は、放送協会からもらった変な書物と一緒についてきた契約用紙をこのボールペンを使って書いている。たくさん文字が契約用紙には書いてあるが、とりあえずは俺でも読める字なので何とか書いてあることに則って書くことができる。これを今度放送協会の奴らが来た時に渡せばいいんだな? そうだよな。
放送という言葉の意味を俺は全く知らない。俺が馬鹿だから知らないのではなくて俺がいた過去の時代では、その意味を知っている人は誰一人としていないだろう。放送という言葉の意味はジョンが帰ったら調べるとして、とりあえず俺はこの契約書を書かなくては。
てれびをつけてみると、黒い眼鏡をかけた男がたくさんしゃべっている。観客とおぼしき人たちは、「そーですね」と口をそろえて叫んでじゃないか。もうなんかすごいなぁ。
・・・どうしよう。ものすごく暇だ。やることがない。
この時代にやってきてから、色々と面白いことを知ったりいろんな技術をこの部屋で学んだりしたけれども、流石にこうも家にずっといたら全ての事を網羅してしまい、暇になってしまうのだよ。
いったいどうすればいいのかな。ジョンはまだ帰っては来ない。食事はとりあえずあるものを食べているが、早く外に出てもっとたくさんのことを学びたいと思う。
だけれども、家にずっといてもな・・・。
ドンドンドン。