八十巻目 カレー・・・久々にいいかもしれない
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食事というのは本来静かに食べるものだ。俺だって、昔は静かにひっそりと食べていた。食べながらワイワイと騒ぎ立てながら、味も気にせずに食べるのは食べ物に失礼だからな。だけれども、この時代に来てからは食事中にしゃべることが当たり前になってきている。
最初は慣れなかったが、何回かしゃべってみると案外食事中のおしゃべりも面白いものだということに気づいた。そして、味をしっかりと堪能しながらしゃべるのであれば、食べ物には失礼じゃないな、というふうに思うようになったのだ。
だけれども、今回のカレーはしゃべることさえ忘れてしまうほどの美味しさなのだ。これまた驚いたことに、彼も全くしゃべらずに一心不乱にカレーを食べている。
カレーというものをあまり食べたことがない俺でさえ、このおいしさには本当に衝撃を受けているほどだ。これはすごすぎるぞ。おいしすぎるんだ。
コク、うまみ、辛さ、甘味、香り。全てを取っても完璧で、俺が今まで食べてきた食べ物の中で一番の味だ。多分今後これ以上のカレーを食べることもないし、食べたいとも思わない。このカレーは俺にあっている。
俺のためにあって、俺のために作られて、俺がここに来るのを待っていたと錯覚してしまうほどだ。
いや、本当に彼についてきてよかったな。
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「私は今から外に行くけれども、あなたもついてくる?」
「いいの?」
「これ以上あなたの事を無視し続けていてもうるさいだけだから、少しだけかまってあげるわよ」
「もう、本当に美希はツンデレなんだからぁ~!」
まったく、こいつは一体何なんだ。私がこのアイドルグループのセンターとして活動するようになってからこいつはずっと私の周りをうろちょろしているのだ。本当に犬みたいなやつだ。
最初の頃はかまっていたが、最近は疲れもたまってきて相手をするのがめんどくさくなって、今は多分一カ月ぶりぐらいに犬の相手をしてあげた。これはすごいことだよね?
それにしても、私のどこがツンデレだというのだろうか? まったく、もう少し言葉を勉強してほしいよ。これでもお客さんに見られるアイドルなんだから。
「外へは何しに行くの?」
犬がしっぽを振りながら(そんな風に見える)私に聞いてくる。
「ご飯を食べに行くのよ」
私が少しばかり、温かく言ってみた。
すると、犬はものすごい笑顔になって「キャッキャッ!」という擬音が聞こえるぐらいの喜びようを見せ、「ご飯はどこで食べるの?」と聞いてきた。
「う~ん・・・」
おなかはすいているけれども、何が食べたいかはまだ決めていない。というか、早くお腹に何か入れたいという気持ちが先行していて、とにかく何でもいいから食べたい状況なんだ。
生きてきた中で、これほど食べ物に関して悩んだことはない。というほど、私は今悩んでいるのだ。
そんな真剣に悩んでいる私の姿をみて、犬がこんなことを言ってきた。
「なら、カレーを食べに行こうよ! カレーおいしいところ知ってるから!」
「カレー・・・」
カレー・・・久々にいいかもしれない。




