七十五巻目 そのため息も、またかわいらしいね!
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騒がしい・・・。楽市の比じゃないほど騒がしいよ。ジョンみたいな外国人もいるし、恥ずかしくないのかって思うほどのコスプレイヤーと呼ばれる人もいるし、男が女の服を着ていることもあるし、女が男の服を着ていることもある。なんというカオスな町なんだろうか、と言いたいぐらいの感じだ。もちろん、俺みたいに普通の恰好をしている人のほうが多いんだが、やはりこういう場所だと変な恰好をしている人がいつも以上に変に見えるんだよね。不思議な感覚なんだけれども、俺だけが感じてるのかな・・・?
そんなことはどうでもいいんだよね。ぶっちゃけ、誰がどんな恰好をしているとかそういったことはどうでもいいんだ。もしかしたら、こう言ったところで普通の恰好をしている方が変なかもしれないし、変な格好をするほうが暗黙の服装規定なのかもしれない。
ならば、今度来るときはコスプレ、和装でもしていってみようかな。洋服よりも、和装のほうが俺的には慣れてるからな。
「しかし・・・本当にこれがいつもの秋葉原なのか?」
少しだけ、心に思ったことがあったので人に聞こえない程度に小さくつぶやいた。
いつもであれば駅についたら周りも気にせずに職場に直行しているし、初めて秋葉原に来た時はそもそもそんなことを気にしている暇がなかった。つまり、ちゃんと秋葉原を見るのは今日が初めてなんだ。
「とりあえず歩くか」
しっかりとこの目に焼き付けるとしようか。ゆったりとあるき、ゆったりとみて、ゆったりと時間を過ごそう。どうせ、今日は暇なんだからな。
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「みきーっ!」
「何ですか、凛さん」
「きょうもかわえぇねぇ~」
はぁ、もう。凛が私の頭に顔をすりすりさせてきて、頬をもんでくる。別に嫌ではないんだけれども、ものすごくうざい。すごくうざい。というか、ステージが始まる前にこれをされると、なんかステージでちゃんとしたパフォーマンスができなくなる気がするんだ。ちゃんとはやるんだけれどもね? ただ、感覚としてそう思うだけなんだ。疲れるな・・・。
「美希さん! 出番ですよ」
「はい!」
あぁ、ステージの始まりを告げるスタッフさんの声がする。それなのに、凛は離れようとせずにすりすりとしてくる。
「むぅ・・・」
「そのため息も、またかわいらしいね!」
凛にとっては、私の行為全てがかわいいらしい。まったく、もう・・・照れるじゃないか。
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「おっ、生贄さんじゃないですか!」
人ごみをわけて歩いているときに、後ろから聞き覚えのある声で、特定のところでしか言われていない名前を話しかけられた。




