七十巻目 寂しいだけだろう
素晴らしい出来事の後、ようやく俺は家に帰った。今日も昨日と同様にインターホンを押さずに部屋へと入る。案の定部屋の中には誰も居なかった。
「今日も帰ってきていないのか・・・」
とりあえず、確認の意味も込めて俺はそうつぶやいた。
帰りに買ってきたコンビニの弁当を電子レンジで温める。この時ほどジョンを恋しいと思う時はないだろう。勘違いしてほしくないから言うけれども、決してこの恋しいというのは恋心から着ているものではない。この恋しいというのは、いつも通りの生活(食生活)ができずに悲しいという意味だ。
電子レンジで温められた弁当を取りだすときに少し手をやけどしてしまった。どうやら、時間をやりすぎてしまったようだ。
「あぁ・・・もう・・・」
一筋の涙でも流したいぐらいだ。悲しすぎるよ・・・。
※※※※
ゴッ!
「早く起きろよ」
「あぁぁうん?」
白人は男の腹をやさしく蹴った。骨折しない程度に、サッカーボールを蹴るよりも優しく蹴った。ちょうど目覚めるにはちょうどいい痛さだ。
ただ、蹴られた当の本人は気持ちよく寝ていたところに、謎の痛みが走り、さらにはさっき自分のことを打った白人の声がするわけだ。突然のことがたくさんありすぎるために、しっかりとした言葉を発することが出来ずに、とてつもない間抜けな声を発してしまった。
その声に白人は「やっぱり、こいつのことを好きには慣れないな」といい、また男に軽蔑する目を向けた。
「うぅぅん」
男はまだ意識がはっきりしておらず、ここがどこかも理解していない(まぁ、意識がしっかりしていたとしても理解することは無理だと思うが)。今のところの男の頭の中は、夢と現実のちょうど真ん中といったところだろう。
「どうして、俺がこの男の面倒を見なければいけないんだよ・・・ジョンさんよ・・・・・・」
白人は白い部屋の天井を見上げて、そうつぶやいた。
※※※※
シャワーに入るときはいつも鼻歌を歌いながら入る。最近は仕事柄ずーっと聞いている戦国ロリポップの歌を歌っているが、たまには違う歌を歌ってみたいものだ。仕事先が日本のサブカルチャー(意味は知らん)の発信地である秋葉原なのに、俺はその秋葉原にたくさんある、アニメ、マンガ、ゲーム、アイドルにあまり触れたことがないのだ。少し位は自分が元になっているアニメやマンガは見たことがある。ほんのちょっとだけだぞ。
ただ、それ以上見ようとは思わなかったのだ。興味がない、というと嘘になるが、見たいという意欲が湧かなかったのだ。一体、なぜなんだろうか。
シャワーの温度は今日はいつもよりも熱めに設定した。今日はなんだか、熱いお湯を浴びて気分を爽快にしたい気分なのだ。なぜだかわからないが、そんな気分なんだ。
ジョンがいないのは流石にもう慣れた。むしろこれぐらいの事に慣れるにはすこし時間がかかりすぎたぐらいだろう。ただ、ジョンがいないだけなのだ。それ以外別に何ら変わりない日常だ。別にジョンがいなくたって困りはしないだろう(食事以外は)。
ただ少しだけ。
「ふぅん」
寂しいだけだろう。




