六十八巻目 人を殺すのは趣味じゃないですから
昼と同じように、俺はインターホンを押さずに扉を開け「ただいま」と言った。しかし昼と同じように、ジョンの返事はなかった。
やはりこうなると少しばかり心配になってくるが、ほろ酔いの俺は「とりあえず、寝るか」という考えのもと、この時代に来てから毎日欠かさず入るようになったシャワーを浴び、押し入れから布団を取りだし敷き、中に入りゆったりと眠ることにした。
大抵の人だったら、疲れていれば夢などを見ずにぐっすりと眠ってしまうかもしれないが俺の場合、疲れていても、疲れていなくとも夢を見てしまうのだ。仕事をしているときの夢を見る時もあれば、この時代に来た最初の頃は昔のことがよく夢に出てきたものだ。いい夢も、悪い夢も。
だけれども、今日は夢を見ずに目覚めてしまった。一切夢を見ずに・・・。
「んぁ・・・ん」
起床するときに、少しだけ声を漏らし背をピーンと伸ばして目覚めた。
「ジョン、帰ってきたか?」
その問いかけにも、ジョンが答えることはなかった。
※※※※
三時間ぐらいの愚痴が終わると白人が少しだけため息をついた。男は白人の様子をうかがうように、白人の顔をじろじろと眺めていた。
それに気づいた白人が、男に少しだけにらみ返して、「もしかして、あなたは同性愛者なのですか?」と男に問いかけた。
「は? 何を言っているんだ?」 男は冷静に白人の問いかけに疑問を呈した。
その疑問を聞いた白人は、口が終わった時のため息よりも深いため息をついた。
そして、「まぁ、そんなことはどうでもいいのですよ」とつぶやいた。
白人は、また汚いものを見るような目で男を見て男に対してこう言った。
「自分から進んで慈善活動は私はしません。あの人の指令ですから仕方がないですよ」
べらべらとしゃべり始めたので、男はきょとんとした顔で白人を見つめる。
「これも仕事のうちですから」と白人はいって、胸元から黒光りしたものを取りだした。
男はその取りだしたものに、少しだけ怯えたがすぐに静かになった。
なぜなら白人が取りだしたものは銃で、男はその銃で撃たれてしまったからだ。
「安心してください、人を殺すのは趣味じゃないですから」
※※※※
「えっ!? じょんじょん帰ってきてないんか?」
「はい、そうなんですよ・・・」
仕事をジョンがいないからと言って休むのはさすがに無理があるので、しっかりと仕事には行った。ただ、凛が心配するといけないのでジョンがまだ帰ってきていないことを伝えた。まぁ、伝えたことによって凛の心配が増してしまったのは言うまでもないだろう。




