六十五巻目 凛の下で働くことになったのだ
それでさ、初めて電車に乗った時に一つだけ悩んだことがあってさ、電車を乗るときに切符っていうものを買うだろ? 今は電子マネーのほうが多いって聞くけれども、俺はまだそれは使ったことがあかったから一回存在を忘れてくれ。
切符を買う時には、なんか変な機械に触る必要があるだろ? そのところが押すところもないのに、いや本当は書いてあるから押すところはあるんだけれども、インターホンみたいに押すところが出っ張ってないだろ? だからさ、最初買う時にジョンが「まぁ、適当に買って見てくださいよ」と言ったから、本当困ったんだよ・・・。あいつは本当に適当だから、そういう説明は一切無しなんだよな。そのかわりといっては何だけれども、どうでもいい知識だけは分け与えてくれるから、本当にね・・・そのどうでもいい知識をどうにか必要とする知識に変えてくれないだろうかと、いつも思うばかりだ。
家の最寄り駅と向かう列車の中で俺はそんなものすごくどうでもいいことを考えながら、窓を見つめる美希の姿を眺めていた。その姿はどこか悲し気な、というかなにか・・・きっと何かを考えているような感じだった。いつもの可愛さとは違い、どこかしらか大人びた美しさがあった。これもまた一興だな。
※※※※
「おぉ、ようやく帰ってきましたか」
家に帰ると、ジョンがのんきにそんなことを言ってきた。
「うん、ただいま」
やっぱり帰ってきたと気の挨拶はしっかりとしないとな。
俺と美希は部屋の中に入り、俺は美希のためのお茶を作ろうとした。しかし美希は「あぁ、長居はしないつもりなので、大丈夫ですよ」と言ってきた。悲しいが、お茶を作るのはやめることにしよう。
少しだけゆったりとした後、美希が言ってきた。
「じゃあ、また明日迎えに来ますね。それでは」と言って、帰ってしまった。残念だな。
美希が帰ってしまったから、ちょっとだけつまらなくなってしまった。とりあえずせんべいをポリポリとかじっているとジョンがこんなことを言ってきた。
「それで、贈り物は何にするか決まったんですか?」
こいつに、美希に贈り物をするとは一言も言っていないと思うけれどもな・・・はっ!
「あっ・・・」
「何にするか決まったのですか?」
「忘れてたよ・・・」
すっかり忘れていたよ、美希に贈り物をすることを・・・。
まぁ、明日もあるから別にいいか!
※※※※
翌日、また美希が来て、俺はまた凛のところへと行った。まぁ、行く前にちょっとだけ喫茶店に入って、履歴書という書類を書いた。その書類には写真というものを貼る必要があって、俺は初めて小さな箱のような場所に入って証明写真というものを取った。そして、その写真によって俺は改めて確信することができたことがある。
それは俺の顔の年齢についてだ。いや、肉体的にも変わっていることは実感として張ったが、この証明写真のおかげでそれが確信に変わったんだ。俺は昔の時代に比べて、確実に若返っている。絶対に若返っているはずだ!
ふふふ・・・っ。これはいいじゃないか。神は素晴らしいものを与えてくださった。
これだったら、いくら無理をしても大丈夫なはずだ。いろんな意味で無理をしても大丈夫なはずだ。
そして、その若返った写真を履歴書に貼りその履歴書を凛に渡した。
凛は、数秒間俺の字を見た後に、「また、独特の書き方やのう」と言い、その後すぐに履歴書をどこかへと放り投げた。果たして、履歴書の取り扱い方としてそれはあっているのだろうか?
「まぁ、何はともあれようこそ、生贄君! 私は君を歓迎するよぉ!」
今日から俺は、この凛の下で働くことになったのだ。
しっかりとこの仕事を成し遂げたいと思う。絶対にだ・・・!




