六十二巻目 生贄としてね
「・・・信長様」
か細い声で、彼女は俺の名前を呼ぶ。かわいい声で呼ぶものだから、ものすごく気分がいい。
そんな訳だから、とりあえず優しく言葉を返す。
「なに?」
俺がそう返すと、美希は一瞬だけブルブルとした。そのブルブル感がものすごいものだった。まるでこんにゃくを振った感じのようだ。・・・たとえが悪いな。
そして、美希は震えた声で俺にこう言ったのだ。
「バ、バイト先・・・紹介・・・・・・します」
断片断片で聞き取るのが容易にはいかなかったが、どうやらバイト先を紹介してくれるらしい。
・・・なぜ、いまさらバイト先を紹介してくれるんだろうか。というか、バイトの当てがあったんだな。
※※※※
先ほど凛と話した場所から、結構な距離を歩いた。久しぶりに歩いたから結構な距離に感じるだけで、実際は昭和通り口から電気街口に出ただけだがな。
電気街口を出て、奥の方奥の方ひどく暗い方へと道を進んだ。距離を進んだ後、かなり明るく広い通りに出た。そして、その通りに面しているひときわ大きな建物の前についた。
そして美希はもじもじしながら、恥ずかしそうに言った。
「こ、ここがバ・・・バイ・・・ト先です」
「バイト先ね?」
「はい・・・」
なぜもこうも自信がなさげに言うのだろうか。不思議で仕方がないな・・・。
それにしても、ものすごく大きな建物だ。ジョンが前こう言った建物のことをビルと言っていたな。だけれどもこのビルは、そんじゃそこらのビルとは大きさが違った。本当に大きな建物だった。
果たして、本当にここがバイト先なのだろうか・・・。
「ついてきてください」
美希はそういうと、きれいな表玄関とは違うちょっと薄暗いビルの裏側へと俺を連れていった。裏側には、地下へと続く階段があった。
「・・・こっちです」
小さな声でいう。
その声に従い、俺は薄暗い照明で照らされている、ちょっぴり汚い階段を下へ下へと進んだ。下へ進むごとに、どこかで聞いたがあるような感じの音が少しずつ聞こえてきた。
そして階段を降りきった後、ようやく少しだけだが明るくきれいな場所についた。
そこには、先ほど会った凛の姿があり、凛はとてもにこやかに俺たちの事を見ていた。
「おぉ美希ぃ、やっぱり連れてきたかぁ~生贄を」
生贄という言葉に若干の疑問は残ったが、まぁいいだろう。
「凛さんにあそこまで言われたら連れてくるしかないですよ・・・」
凛に何を言われたのだろうか・・・。
「私はそんなに言ってないお!」
「言いましたよ・・・」
とりあえず良く分からないが、俺はどうやらバイト先についたらしい。生贄としてね。




