六十巻目 大人の雰囲気
ジョンは、コーヒーを少し飲んで喉を潤してから、ようやく語りだした。
「いや、りんりんのところでこの子を雇ってほしいなぁと思ってですね・・・」
「・・・えっ?」
『りんりんのところでこの子を雇ってほしいなぁ』、ってどういうこと?
ジョンからのこの子ということだから、その子とは当然私のことになる。・・・ん? どういうことだ? こういう時だけ、自分の感覚の鈍さに苛立ちを覚えてしまうな。どういうことだ? 訳が分からなくなってきたぞ?
「なるほど~! じょんじょん頭ええね!」
りんりんは、典型的な「なるほど!」のポーズを取った。やっぱしこいつは馬鹿なんだな。それにしても、何を理解したというのだろう。ジョンのどこら辺が頭がいいというのだろうか?
「それほどでもないですよ・・・でへへ」
ジョンは、りんりんが言った言葉に謙遜な態度をとった。それにしては、照れ隠しができておらず、言われたことに関してものすごく喜んでいるようだった。
喜びのにやけが少しだけ続いた後、ジョンが一度「コホン」と咳ばらいをした。その咳払いのおかげで、さっきまでの馬鹿げた雰囲気からガラッと変わり、どちらかと言えば大人な雰囲気が漂うジョンになった。
そして、冷静なトーンでりんりんに尋ねた。
「雇ってくれますか、りんりん?」
尋ねる姿だけ見れば、優秀な人間に見える。
尋ねられたりんりんも、さっきとは違う大人な雰囲気を漂わせこう言った。
「もちろんなり!」
袖を振って、顎をくいッと挙げて自信ありげに答える。
「そうですか! よかったです!」
ジョンは、りんりんが自分の求める最高の答えを出してくれたのでものすごく喜んでいた。
それを見てりんりんは、「じょんじょんが喜んでくれて、吾輩もうれしいなりよ!」と、さっきよりも激しく袖を振っている。
それに対抗するように、ジョンはにやけ顔をさらにニヤニヤさせていた。うざいったらありゃしない。
言っておくが、これはカフェで起きている話だ。周りにはたくさんの客がいて、私たちを凝視していた。まぁ、私は恥ずかしという気分は・・・全くなかった。
やはり、大人の雰囲気がいくら流れようとも、この二人は馬鹿なんだ。私はこの時初めて、雰囲気というのは見られているその人が醸し出すものではなく、見ている自分自身が勝手に見られているその人の雰囲気を想像しているのだということに気づいた。あぁ、なんて馬鹿げた話だろうか。
それにしても、二人は何についてそんなに喜んでいるのだろうかな? 私には、さっぱりだ。




