五十六巻目 背筋がピンとなって凛のほうを向いていた
この場所いたらいいことが起こるわけもないしそれ以上に、悪いことが起きるかもしれない。なぜだか凛と一緒にいても、いい気がしないんだ。彼女には悪いけれども、彼女からはとてつもないほどの不吉なオーラが醸し出されているんだ。少なくとも俺と美希はその不吉なオーラを感じることが出来る。
一刻も早くこの不吉なオーラを醸し出している人物の前から立ち去りたいのだが・・・残念なことに、いつものような名案を考え付くことができなかった。悲しいことに・・・。
ちょっとばかり助け舟を求めてもう一度だけ美希のほうに意識を向けると、美希と凛は話をガンガンにしていた。主に凛が中心となって。
凛の声はとても元気のいいものだった。まるでさっきまで落胆していたのが嘘だったかのように。
「じゃあさ、二人はどんな関係なのぉ~?」
凛は俺の傷口をえぐるためにかどうかは知らないが、そんなことをかわい~く聞いてきた。
「・・・普通の関係よ」
美希は冷静にそう答える。その冷静さは本来美希に備わっている性格からきているものではなく、今発生している美希自身の混乱を抑えるもためのものだ。ただ俺の願いとしては、普通の関係ではなく“友達”とか“仲のいい知り合い”と言って欲しかった・・・どうしよう、また目から涙が出てきちゃったよ・・・。
「普通の関係ってなによ!?」
なんだかわからないが、凛は驚き目をらんらんにさせ美希のほうを見ている。
美希は一瞬、凛のらんらんな目にひるんでしまったようだが、すぐに体制を立て直して回答をした。
「ただの知り合い。特別なこともなにもない、ただの知り合いよ」
ただの知り合いですか・・・。特別なこともなにもないんですか・・・・・・。そりゃあちょっとひどすぎやしませんか、美紀さんよ・・・。
俺の心の中は、もやもやがたくさん詰まって破裂しそうになっている。もやもや、正しくは悲しさだ。今俺は、悲しくて悲しくて仕方がないんだ・・・あぁ、もう・・・。
「美希」
俺が悲しさに打ちひしがれているときに突然、凛の声が透き通った。その声は美希を呼ぶための“美希”だったが、なぜだかしっかりとその言葉を俺は聞いてしまった。
思わず美希のほうを見てみると、美希も俺と同じように凛の言葉をしっかりと聞いたようで、背筋がピンとなって凛のほうを向いていた。
「な、何?」
美希は、ものすごく動揺をしている。透き通った言葉以前に、突然自分の名前を呼ばれたのだから、動揺するのも無理はないだろう。




