四十九巻目 形容しがたい声色
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さっきの恥ずかしさが消えるころには、彼女が家にやってくるになっていた。このぐらいの時間になると、ジョンは少しだけ静かになり、俺とテーブルをはさんで正面に座りながらお茶をすすっていた。そして、俺がそんなジョンの姿を見ながらせんべいを食べようとしたその時だった。
かけていたテレビ(ようやくテレビというものを学びましたよ)から、台詞が聞こえてきたのだった。
『恋は目で見るものではなく、心で見るもの』
その時かけていたテレビというのは、偉人?たちが言っていた言葉を紹介するテレビで、子の台詞はシェイクスピアという偉人が言った台詞らしい。なるほど、素晴らしい台詞だ。確かにその通りかもしれないな。
だけれども、こんな台詞が紹介されているのに俺の台詞が紹介されないのはなぜだろうか。本当にそれだけが謎だ。俺も結構いい言葉言ってると思ったんだけれども、この時代の人の心には響かないのかなぁ・・・。ちょっと残念だな。
「こういう番組は、西洋の偉人ばかり紹介しますから、日本人の偉人が紹介されるのは本当に稀なことですから、気にしないほうがいいですよ」
ジョンは俺をなぜだか慰めてくれたが、そんなに俺は落ち込んでいたのだろうか。というか、今思ったけれども、俺って偉人なんだろうかな? でも、みんな俺のことを第六天魔王とか言っているから、どちらかというと悪い方での偉人って思われてるんだろうな。そういうイメージをいずれは払拭しないとな。
せんべいをぼりぼりと食べ進んでいくと同時に、俺の心臓の鼓動は早くなっていった。ドキドキドキと、心が音を響かせる・・・。つらいねぇ・・・・・・。
そんなドキドキな俺の心をさらに響かせる音が、部屋に鳴り響いたのだ。この音を聞くのは放送協会の奴が来た時以来だろう。
ピンポーン
「おっ、ようやく来ましたか」
ジョンがお茶をすするのをやめて、玄関の方へと向かった。そして、ある人物をこの部屋に通した。
部屋に通された人物は、いつもとは洋服や髪形が違いとても・・・なんというか・・・その・・・・・・とてつもなく形容しがたいが、今使える一番近い言葉だったら「かわいい」という言葉が一番適切だろう。もちろん、かわいい以上のものなのだがこれを使うしか方法がない。
そして、その人物はこれもまた形容しがたい声色で言ってきたのだ。
「信長さん、お待たせしました」 とてもいい笑顔で言う。
「ぜんぜん待ってないよ、美希。今日はよろしくね」
ようやく始まるのだ。俺の、俺にとって、俺史上もっとも幸せな時間が始まるのだ。




