四巻目 印象とかそういうものは脈々と受け継がれていく
「・・・ジョン。俺は別にさ、現状を理解していないわけではないんだよ。混乱はしているけれども、とりあえずは理解できているつもりだ」
「さすがノブですね」
ジョンは、ドーナツを食べ終えてコーヒーを飲みながら答えた。
「だけれども、俺は帰りたいんだよ。やり残したことだってあるしさ、慣れない世界にいるよりかは、姿かたちが違ってもいいから、元々いた世界に帰りたいんだよ」
切実な願いだね~。俺はここまで人に頼むのかぁ~。
ジョンはちょっとだけほほえみ「たとえ過去に帰れたとしても、あなたの姿かたちは変わりませんよ」と言ってきた。問題はそこではないのだが、俺はジョンの天然さにようやく気付いたのだった。
しかし、なぜここまでジョンははっきりと言えて、まるで分かり切っているかのような表情浮かべることができるのだろうか。そういえばなんか、ジョンの正体を聞いたような気がしないでもないけれども、なんだっけな?
「例えば、あなたがもし過去に帰れたとしましょう」
ジョンが突然しゃべり始めた。
「あなたが、死んだとされる本能寺での出来事よりも前に、家臣達のもとに帰れたとしましょう」
「うん」
「そうすると、その世界にあなたが二人存在することになりますよね?」
当然そうなるな。俺でもそんなことは理解できる。
「もし、あなたがノブの家臣ならいきなり現れたノブと、元々いたノブのどちらを信用しますかね?」
「・・・? どう言うことだ?」
「二人いたら、どちらかは偽物かもしれない。信用されていないほうはもしかしたら殺されてしまうかもしれません」
「戦国の世は、信用しないのが当たり前だぞ?
「そんなのはどうでもいいんですよ。要は、死んでしまったら元も子もないと言っているんですよ」
そうか、死んじゃったら元も子もないか。死ぬとかそういうことは、みっつーに囲まれた時でもそんなに考えなかったしな~。意外とマジで、あの時死ぬかもしれないとか口にしたのはあれ冗談だから、マジだからね?
「それにしても、あなたは意外と家臣思いなんですね」
「意外とは余計さ。いったい、この時代では俺はどんな印象を持たれているんだ?」
家臣思いとかそんなこと言われるのは、別に悪い気はしないけれども、意外とか言われるとちょっとだけ気になることがあった。それは、この世界、この時代においての俺への印象とかイメージとかそういうのだ。やっぱり、後もう少しで天下取れそうだったから、ちょっとは有名なのかな~。というか、誰が天下取ったのかな? やっぱり、みっつーなのかな?
「印象ですか。そうですね~・・・、あっ! こんな句がありますよ。これが一番あなたの印象を表しているかもしれませんね~」
「おっ! どんな句なんだ?」
なるほど、なかなか粋なことをするじゃないかどこかの誰かさんよ。俺の印象が描かれている句なんて、どれほど素晴らしいことなんだろうか!
「でも・・・本当に聞きたいですか?」
「もちろんさ! 教えろよ!」
どんな句なのかな? かっこいい句とか、素敵な句だといいね~。俺をたたえてくれている句とかだったら、最高だね~。
「鳴かぬなら 殺してしまえ ほととぎす。簡単に言うと、あなたは短気だということですよ。それ以外にも、残虐であるとか、無慈悲であるとか、魔王であるとか、そんな感じですね」
「えっ・・・」
対して、昔とイメージが変わっていない。いいのか、悪いのかよくわからないな。
「それと、あなたのイメージかどうかわからないけれども・・・」
「なんだよ、ジョン?」
ジョンは、バックの中からまた本を取りだした。そして、にやにやしながらその本を俺に手渡した。その本の表紙には女の絵が描いてあった。今の絵は、結構変なんだな。
「ノブ、その女性の絵なんだと思いますか?」
「ただの絵だろ?」
「まぁ、ただの絵ですけれども、その絵のもともとの人物は誰だと思いますか?」
「知らないよ」
すまんが、ちょっとわからないな。
「この絵のもともとの人物、あなたですよノブ」
「はっ?」
俺は男だぞ? 蘭丸みたいなもんなのか?