四十三巻目 トラウマを作らせる気ですか?
「それは、あなたは一番分かっているはずですよ。ふふっ」
不敵な笑顔で、笑いやがった。
分からないから考えているのに、『分かっているはず』と言われてしまった。
もしかしたら、ジョンのことをすごいと思っていたのは間違いだったのかもしれない。こいつはもしかしたら、すごい、ものすごく無能な人間なのかもしれない。きっとそうだ。こいつは本当は無能で、いつも適当なことを言って俺のことを、騙していたんだ! そうに違いない!
「ノブ! 私は断じて無能ではありませんよ!」
「本当に無能じゃないんだったら、俺なぜ気づかなかったのか理由を言ってみろよ」
「いいでしょう!」
ジョンは、顔を真っ赤にして、鼻息も荒くなっている。きっと、無能と言われたことに対し怒っているのだろう。
「なぜあなたが気づかなかったか・・・それはですね!」
ジョンは、大きな声を出している。
「それはぁ?」
俺もジョンに負けないように大きな声を出してみる。大きな声を出すと、心が落ち着くものだな。
ジョンは数秒間、間を作った。そして、深呼吸をしてこう言った。
「あなたは元々人の上に立っていた人間でした。だからこそ、人の上に立つという発想はあっても、人の下で働くという発想には至らなかったのですよ。それにあなたには、人の上に立つ才能が生まれながらに備わっていた。今までのあなただったら、働くという発想自体考えもしなかったことかもしれませんが、それもこれもこの時代にやってきたからこそ発想できたことですね。良かったですね」
ジョンは冷静に、淡々と説明をした。
そして俺は、考えてしまった。もしかしたら本当にこいつは無能なんかもしれない、ということをだ。怒らせれば、言うと思ったけれども、こんなにもあっさりと言われてしまうと、ちょっとばかり恐怖まで感じる。もう少し、こいつに対しての考えを改めなくてはいけないかもしれないな。
「ノブ、ちょっとそれは言いすぎじゃないですか?」
「俺は何も言ってないさ。お前が勝手に心をのぞいてるが悪いんだろ?」
「トラウマを作らせる気ですか?」
「虎、馬なんていきなりいわれても、お前が作れるとは俺は思えんよ」
「なにか、勘違いされてますよ・・・」
泣きそうな顔になっているよ。
ここまでジョンより上の立場になれたのは、もしかしたらこれは初めてかもしれない。ジョンの言う通り、俺は人の上に立つことは得意なんだけどもなぁ・・・。
働くとなると、これが初めてかもしれない。というか、昔はそのまま仕事を親から受け継げばいいだけだったけれども、この状況ではそんなことは無理だしなぁ。ましてや、今の時代にある職業なんて全く分からないぞ。もし、今でも武士がいるのであれば職には困らないと思うけれども、ジョンの髪形を見る限り・・・というか今気づいたが、俺の髪形も違うんだな、あの時代と。
いったい、この時代にはなんの職があるんだろうか?




