二十八巻目 ちっちっちっ
※※※※
パシッ!
「はっ! ・・・ノブ、落ち着いてください」
両手でとられるとは・・・。渾身の一振りだった。力を加減せずに振ってやったのに、手で取られるとは本当に不覚だった。これ以上の力を出すことはできないが・・・
「次は、少し技を加えて振ってやるよ。大丈夫だ、一発で仕留めてやるから」
「ヘイヘイ、ノブ! 落ち着いて、落ち着いて。深呼吸! 深呼吸をして!」
ジョンは、俺を拝みながら泣きながら俺に懇願している。
「大丈夫だよ、俺は無慈悲な第六天魔王様だから」
そりゃあ、静かな口調で言ってやったさ。あの時の俺は、ものすご~く腹が立ってたからな。全部、ジョンのせいだから仕方がないだろう。悪いのはジョンだ!
だけどもその口調のせいで、本当にジョンが泣きだしてしまって。
「マジすいません! マジで、悪かったと思ってます!」
「しらねーな」
「調子に乗りすぎました! 本当に、しゅいましぇん・・・」
ヤバイよ、涙、鼻水をボロボロ流してるんだから。そりゃあ俺がもし、相手をいじめるのが好きな奴だったらとても気分がいいだろうが、俺はこう見えても正々堂々として。人に対しては優しくありたい人間だからなぁ・・・。ちょっとだけ、やりすぎちゃったかなと反省をしてみたりしてみた。
「・・・」
「のびゅにゃがさま?」
ここまで泣かれるとは思わなかったからな。泣く前に仕留めるつもりだったしな・・・。
「・・・もう、いいよ」
「ふぇっ?」
俺が、もう終わりにしよう宣言をすると、ジョンはものすごく驚いた表情をして、泣くのをやめた。
「ちょっとだけやりすぎた。お前が九割方悪いが、俺も少し反省している」
「・・・ちょっとだけじゃないですよ」
「やっぱし、つぶしてやろうか?」
「嘘です! 本当に許していただいて、ありがとうございます!」
「よろしい」
とりあえず、俺は笑ってやった。ジョンは引きつった笑顔で、それに答えた。
こんなジョンの笑顔を見るのは、初めてだ。少し、征服した感じがあっていい気分だ。
――――
包丁をかたずけて、俺はジョンの前に座り、こう言った。
「とりあえず、“いいもの”って何だよ?」
今回の争いのきっかけである、“いいもの”とは何なんだろうか? それが一番の疑問だった。
「・・・やっぱり、見たいですか?」
ジョンは、すごーく反省した顔で聞いてくる。
「当たり前だろ」
「そうですか・・・」
ジョンは、今度はまたすごーく悩んだ表情をしている。
「なんだよ、だめなのか?」
「だめじゃないんですけれども・・・う~ん・・・・・・」
「いいから、見せろよ!」
ちょっとだけ大きな声を出してみた。するとジョンはビクッ!としてこっちのほうを見てきた。
そして、震えた声でいってきた。
「今すぐに! 今すぐにお見せいたします!!」
―――
ジョンはてれび、というものに何かを差し込んでいく。この光景は、何度か見たことがある。
「“いいもの”っていうのは、でーぶいでーのことなのか?」
この光景は、いつもジョンが見たい(見せたい)でーぶいでーを再生?するためにする光景だ。でーぶいでーは確かに面白いだって絵が動いたり、音が鳴ったり、本当に面白いものだ。だけれども、いつものでーぶいでーならジョンは、普通に、こんな回りくどいことをせずに見せてくるはずだ。
俺が聞いてみると、ジョンは「ちっちっちっ」と言って、指を振っているではないか。
「なんだよ、その動きは?」
非常に気になる動きだ。非常に気になり、腹が立つ動きだ。深呼吸、深呼吸・・・。
「まったく、ものを知らないとは本当に恥ずかしいことですね」
その意見には同感だが、もしその言葉を俺に言っているのであれば、俺はそれ相応の対応を取らなければいけなくなるだろう。
「じょ、冗談ですよ!」
「自然に俺の心を読み取るなよ」
「すいません」




