二巻目 信長は外国人という事で
「な、名前などただの飾りにすぎん!」 ちょっとだけ反抗してみた
「黙秘するの?」
「も、もく?」
「まぁ、いいや。その調子じゃ住所とかも答えてくれないよね…めんどくさいな」
太郎は頭を悩ませているようだ。しかし一番頭を悩ませているのは俺自身だ。どうしてこんな状況に陥っているのか、もう訳が分からない。だれでもいい、誰か助けてくれ。第六大魔王と呼ばれた俺がこんな泣き言を言って、さぞかしどっかにいる延暦寺の奴らは俺の事を見て笑っているんだろうな…くそ。
トントントン。
音が聞こえた。見てみると、南蛮人が窓を叩いているではないか。
「ん? なんで外国の方がパトカーの窓なんか叩いてるのかな…。ちょっと君待っててね」
待たされよう。
太郎はパトカーから降りて、律儀に扉を閉じてその外国人と何やら話を始めた。そして太郎が帽子を取って頭を下げているではないか。宣教でもしているのか?
話が終わり、太郎が慌てた感じで扉を開けた。
「ごめんね。君、外国人だったのね。すっごい日本人顔だからさ、叔父さん勘違いしちゃったよ。悪かったよ。えーと、アイムソリーね。ゆるしてね」
さっきまでの高圧的な態度とは打って変わって、太郎はものすごく下出に出ている。
「君の友達のジョン君が来てるから、今日はいいよ。ゆっくり観光楽しむんだよ」
ジョン? 誰だそいつは。 俺が知っている外国人っていたら一番印象に残ってるのは弥助ぐらいしかいないぞ。弥助・・・あいつ本能寺にいたけれども大丈夫かな。
とりあえず、パトカーから解放されることになった俺だが、やっぱり頭の中は混乱している。新しい人物ジョンの登場によって、もはやショート寸前だ。
「やぁ、ノブ」
最初に彼にあった時は本当になれなれしいやつだと思ったよ。
「なぜおれの名前を知っている、というかお前は誰だ?」
あのときの彼の笑顔は今後忘れることのできないような表情だ。
「私の名前はジョン。ジョン・タイタ―。アメリカ人です」
「あ、あめりか? なんだそりゃ?」
知らない言葉をたくさん聞いてきてもう良く分からなくなっている。
「まぁ、落ち着いてください。冷静になることが一番ですよノブ」
「・・・」 本当に刀がなくてよかった。最低限、ノブって言うのをやめさせたいが、もし無理矢理やめさせて、唯一俺の存在をこの世界で知っているこいつがどこかへ行ってしまったら、俺はこの世界でどんな風に行動すればいいか分からなくなってしまうので、とりあえず言うのをやめておいた。
ジョンはなぜか俺の舐めまわすように眺めながら、頷いていた。
「何だよ」 とりあえず、聞いてみた。男が俺のことをじろじろ見るなんて、気持ち悪いだろ。…まぁ、男色の趣味はあるけれどもさ。
「いえ、ノブはきっと、今置かれている現状に困惑しているのだろうと思いましてね」 ちょっとだけ、片言で言ってくる。やっぱり南蛮人なんだ。
「ノブ、あなたは今未来の世界にやってきています」
「はっ?」 なんとなくは分かっていたけれども、やっぱりこう直接言われると、困るものがある。
「今の世界は、西暦2012年。平成24年です」
「せい・・・れき? へいせ…?」 ま~た訳の分からないことを言ってきやがる。
「簡単に言うとですね、あなたがいた天正10年が西暦1582年なので、大体430年後の世界です」
「430年…?」
スケールがデカすぎる。色々と大きなことをやってきた俺でも、こんなに大きなことは味わったことがない。すごすぎるぜ。
「そして、あなたが一番気になっていると思う私の正体ですが…」
「430年……」
その時は、色々なことがありすぎて聞き流していたが、あとあと聞いてまたさらに驚くことになった。
「・・・というのが私の正体なんですよ!」
「430年………」
「ノブ、いい加減そのことを忘れてください」