第二百五十四巻目B あぁるぐれぃ
「人間の意識の改ざん?」
私は、正直なところあまり頭は出来た方では無い。だからこそ理解できないのかもしれないが、それにしても家入の言っている事は少しおかしいと思った。
「正確に言えば、人間の意識、記憶、感覚の三種を改ざんして人間を操るという研究です」
「?」
「さすがのリーダーでも分からないと思いますが、これは研究をしている私自身でさえ分かりにくいというのが現状なんですよ」
研究を行っている物が、自分自身の研究が分かりにくいというのは研究者として正しいのだろうか? 研究が難しいならともかく・・・・・・分かりにくいとは。
「まぁ、ここで話すのも一興ですがやはり落ち着いた場所で話すのが一番でしょう」
「?」
そう言うと家入は私の困惑している様子を汲み取ることもなく、服の隠しから黒光りするものを取りだしてそれをいじくり、ニコッと笑った。
「これで大丈夫です」
何が大丈夫なのか? と、言おうとした時、事態は大きく急変した。急に人混みが私たちを避けるように流れ始め、三分もしないうちに先ほどまでの状況は嘘のようにいつもの秋葉原が現れてきたのだった。そして人々の口からは聞こえていた事件の話は無くなっていた。
「まずは、近くの喫茶店に行きましょう。学生時代にはありませんでしたが、最近できたお気に入りの店があるんですよ。あそこのショートケーキは絶品ですよ」
上手く事態を飲み込むことは出来なかったが、家入の言う事をおとなしく聞いておくことにする。私には感じ取ることが出来る。こいつは普通のものでは無い。あと、さっさと職場に行きたいので、面倒なことにならないようにするのも理由だ。
――――
喫茶店に入るとこぉひぃの香りが漂っていて、日本にいる事を忘れさせられそうになる。私たちは店員の案内に従い席についた。
「今日は私がリーダーの分も注文させてください。好きなものを頼むというのが一番ですが、やはりここは私のおすすめのものをいただいてほしい」と家入が言ってきたので、私は注文の時にはだんまりを決め込み、後にテーブルにやってきたのはあぁるぐれぃなるものとしょぅとけぃきなるものの二つだった。あぁるぐれぃはこぉひぃと違った香りで、こちらの方が私からすれば落ち着くにおいだ。
「リーダー、どうぞ。ここの紅茶は産地こそこだわっていませんが、淹れる技術に関しては他とは秀でています」
「そうか」
一言返事で返すと私はあぁるぐれぃを口に含んだ。いつも飲む茶とは違いなんだか高貴な感じがする。ほうじ茶に近いと言った感じだろうか。




