二十七巻目 さらばだ、ジョン
「お、お願いします・・・。どうか、私にその“いいもの”というものを見せてください」
とりあえず言っておくが、生まれて初めてこんなことを言った。父に対しても俺はこんな言葉遣いをしたこともないし、当たり前だが部下にもない。初めてがジョンになるとは、誰が予想できただろうか。
だけれどもジョンは、下手に出た俺を見るなりさらに調子に乗り始めたのだった。
「あぁん? 聞こえないですねぇ?」
ここでジョンに負けて、こいつを切ってしまうのも自尊心に反する。
「・・・お願いします」
次はちょっとぼそぼそと言ってみた。
「織田信長よ。小さい声で願いが通ると、お思いですかな?」
にやにや顔、さすがに見飽きてきた。だけれども、殺意がわくのは変わらなかった。
「おぅ、おねぇがいします!」
こんどは、大きな声で言ってみた。大きな声はあまり出したことがなかったので、呂律がしっかりと回らなかった。
すると、それを聞いたジョンは「はっはっはっ!」と腹を抱えて笑いだしてしまった。
「何が面白いんだよ?」
つい、本音が声に出てしまった。
「いや、あなたが必死に私にものを頼んでいる姿がものすごく面白くて、面白くて・・・プフッ!」
人を殺すことは、非常に簡単だ。
まずは立ち上がり、台所へ向かう。そして、引き出しを開け包丁を取りだす。
「ノブ? 何をしているのですか?」
そして、心を無にして殺す相手の前に立つ。
「ノ・・・ノブ?」
そして、殺したい相手に敬意を払い、一番美しい型を構える。
「ちょっ、えっ?」
「さらばだ、ジョン」
あとは、勢いよく振るだけだ。
シュッ!
※※※※
天正11年 4月15日
「・・・というわけ、お市様、柴田勝家様は自害されたそうです」
秀吉の部下は、秀吉にそのように伝えた。
「そうか、分かった。あとで軍議を開くからとりあえず今は下がってくれ」
男は、いつも通りに部下に接した。
すると部下は笑顔になり、話を切り出したのだった。
「秀吉様」
「なんだい?」
「あなたには運がつきまわっていますね」
「そう思うかい?」
秀吉は、にっこりと笑いかける。
「も、申し訳ございません。過ぎたことを・・・」
部下は、急に涙目になった。
「いや、別に怒ってるわけじゃないから」
「ほ、本当ですか?」
「本当だよ。それに、運は君たちが運んできてくれているのかもしれないからね」
穏やかな表情で男は、部下に語る。
「そ、そうですか。ありがとうございます! 失礼いたします」
そういうと、部下は急いでどこかに行ってしまった。
部下が去ってから、時間がたった。
「ふぅ、ようやく終わったか・・・」
秀吉は、ため息交じりに話し始めた。
「まったくだな」
ジェルマンは、秀吉の話に耳を貸し首を振っていた。
「でも、君がいてくれたおかげで本当に助かったよ。ありがとう」
また穏やかな表情を浮かべて、ジェルマンに礼を言う。
「礼をいうのは勝手だが、これに関してはお前の実力だ。お前の実力なしでは、部下たちはしたがっていなかっただろうからな」と、ジェルマンはかっこよく言ってみたりする。
「でも、君の手助けなしでは、元々百姓だった僕がここまで成長することはなかったよ。本当にありがとう、ジェルマン」と、またまた秀吉は穏やかな表情を浮かべて、ジェルマンに礼を言う。
「・・・さすがに、うざいぞ?」
ちょっとだけ引きつった笑顔で、ジェルマンは答える。
「ごめんなさい」
秀吉は、涙目に答える




