試作2 流れる時に阿呆の光
今日も時間がなかったので信長さんをベースにした作品の一部を紹介いたします。
これが完成したらAmazonで売り出すんだ(フラグ)
平成二十七年八月十日 秋葉原米宮第七ビル三階
「いつになったらやってくるんだよ、まったくよぉ!」
いつもであれば感謝をしている所だが、さすがに今日の遅刻はひどすぎる。取引先、それもようやく漕ぎつけた融資先の人だっていうのに……。
男子トイレそれも個室の中で叫んだから聞かれていないと思うけれども、融資先の人はまたされているのに何故かニコニコしていた。あれは絶対に怒っているに違いない。怒っているけれども、表面上には出したくないというプライドがあるからあんな感じにしているだけで、あの人が来て「遅れてすみません」と言った途端、ニコニコ顔で「しばくぞお前!」と怒号を発すに違いない。
俺は人に怒られるのは別に怖くはないけれども、どうにも人に大きな声で罵られるのは好きじゃない。だから、さっさと来るなら来てくれ。むしろ来ないでくれた方がいいのかもしれないけれども。
「もう、会社辞めようかな」
この会社に入社したからろくな目にあったことがない。ゲーム会社でゲームをしっかりと作ることがあなたの仕事です、って言われたから入社したのに、入ってみたらゲームなんてほとんど作らずに昔この会社がまだ大きなビルを一棟持っていた頃に発売したゲームの再販の申請や、関連グッズの状況を確認して報告する。そして、何かでお客さんが着たら対応をする、それが入社してからやってきた仕事だ。もちろん小さな会社で、しっかりと給料を出してもらっていることには感謝している。だけれどもこれでも一応は、俺の肩書もプログラマーでありグラフィッカーだ。それであれば、転職した方が、自分のためになるんじゃないかな、と、そんな風に思った。
ただ、今の危機を乗り越えなくては俺の将来、簡単に言うと給料は手に入らない。何かと付けてあの人は「減額させるよー」と軽い笑顔で恐ろしいことを言ってくる。資本主義の世の中だから、お金が必要だ。たとえどんな仕打ちを受けようとも稼がなくては生活が出来ない。ここは、今の苦労やストレスを抑えて働かなくては。
俺はとりあえずトイレの個室で大きなため息を吐き、落ち着くことにした。ただここで一つの不安がまた生まれてしまった。それは、今待たせているお客さんのことだ。お茶とお菓子を出して「もう少しで代表が戻りますので、お待ちくださいませ」と言っておいたけれども、すでにお客さんが来てから一時間近く立っている。一時間を長いか短いかで見れば、仕事単位で見れば短いかもしれないが、待たされている人間にしてみたら長いだろう。このトイレからお客さんのいるところに戻った時、お客さんが暗い雰囲気の中、うつむきながら「殺す」と小さな声で連呼していたら、俺は失禁してしまうと思う。もちろん、そんなことはないと思うが可能性としては大きくあるだろう。
「はぁ……ただ、ここにいつまでもいるわけにはいかないからなぁ」
正直、ここからお客さんのところに戻るのは辛い。精神的にかなりの負担を強いられるだろう。だけれども、戻らなければ戻らないなりに精神が削られていく。どちらにしても心のエネルギーが減らされるのであれば、俺は前者を取って、潔く散ろうと思う。
両肩をポンポンと叩き、少しだけ疲れをとる。そして、「よし」と小さく呟いて気合を入れる。最後に鍵を変えている個室のドアを勢いよく開き、立ち上がる。これだけ戦う十尾が整うという感じだ。
「例えお客さんに罵られようが、俺は生きる」
こうでも言っておかないと、本当に狂ってしまいそうだ。それぐらい追い詰められているということが分かってくれれば本望だ。




