第二百四十九巻目B 泡盛と事件
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正直な話、私がさっきまでいた場所は改札から出てすぐのところ、電気街口アトレの目の前だ。私はそこから右に曲がろうと一生懸命に進もうとしたが、悲しいことに人の流れというものは、一種の暴力と化し流れは左に進むものとなり、右へ向かう者には激しい抵抗にあった。私は平和を愛する人種だから、抵抗を押しのけてまでも右へ向かうことはしなかった。だから今私が今いるのは目の前に赤い建物とラジオ会館がある本当は行きたくなかった方向だ。ここでスムーズに進んでくれればそれで問題は解決なのだが、残念なことにそれは出来ない話であった。やはり外に出たとしても、この人混みは秋葉原全体に広がっているらしく、どうにもこの人混みから脱却することが出来ない。だから私は考えた。今の私に何が出来るかと。そして私はあることを思いついたのだった。
「…………」
そう、私は今人では無く、人混みの流れに身を任せてせるいわば流木なのだ。流木だからこそ何もすることは出来ない。だから、流木は何も考えずただじっと待つことにしたのだった。
しかし、ただ待つだけであればどんな流木でもできるだろう。そこは能ある流木として、私は人の話を黙って盗み聞きするという、先ほどと同じような行動にとることにしたのだった。
幸いなことに、盗み聞きした話はこの人混みが発生した原因といわれている事件についてだった。




