第二百四十六巻目A みきーぃいいいいいぃぃ
―――― ジョンと初めて会ったのは実は、未来に来てからが最初じゃないと思う。
正直に言う。私は、実は自分が何者なのかを理解しはいない。ただ一つ言えるのはこの国の時代区分で言う戦国時代からやってきたということだけだ。記憶はそれぐらいしかない。だから未来にやってきたとき、未来に来たことの驚きよりも自分が何者なのか分からない恐怖感の方が大きかったことは言うまでもないだろう。
そんな恐怖感に支配されている私の前にやってきたのが、ニコニコとしながらドーナツの箱を片手に持つジョンだった。
私はジョンに感謝をしている。この時代での仕事先を見つけてくれたし、何かと献身的にサポートをしてくれる。多少ウザさはあったとしても、それは優しさの範疇であると思えば理解ができるぐらいのものだ。
だから記憶が全くなかったその頃は、ジョンとの生活や途中でやってきた信長様との生活も何不自由なくとても楽しく暮らすことが出来た。記憶が全く無かったころは、だ。
最近になって、私は断片的ではあるけれども昔の記憶……簡単に言ってしまえば戦国時代の記憶を思い出してきたのだ。自分が思い出そう思い出そうと思っていてもなかなかでなかったこれらの記憶だが、最近何気ないことで思い出すようになってきたのだ。そして、その断片的な記憶が多く出るようになったきっかけになったのが、さっきまで私がやられていたジョンの実験だった。ジョンの実験の後、違う世界の戦国時代のような場所に行き向こうの信長様といろいろ話した。もし、記憶があいまいもしくはない状態であれば違う世界の信長様を本物の信長様と思ってしまうけれども、私はしっかりと違う世界の信長様と認識することが出来た。
ということはだ、私はもしかしたら近いうちに本当の自分というものを理解してしまうのかもしれない。それが何を意味するかは私には全く分からないけれども、私はすべての記憶を手に入れた後今までと同じように周りと接せられるのかが不安で仕方がない。
しかし、私はきっと今まで通りに信長様やジョンに接せられるのだと思う。なぜだか分からないけれども、そう言う自信が湧いてくるんだ。やっぱり……。
※※※※
「さて、ここらへんであれば安全なはずです」
「うぅん?」
車の中と言うのはとてもいい環境だ。寝るにはもってこいだ。だから私は睡魔との戦いに負けて、車の中でうたた寝をかましていた。するとジョンが車を止めて、起こしてきたというわけだ。ジョン自身は起こそうとしたわけでは無いと思うけれどもね。
「美希、大丈夫ですか?」
「疲れてるのよ……大丈夫」
「そうですか……」
車内から見てみると、周りは見慣れた場所秋葉原だった。とりあえず車から降りて、ジョンと私は並ぶように立った。そしてジョンは紳士的な口調でこう言ってきた。
「とりあえず今からりんりんのところに行きましょう、私はあなたが行方不明になってしまった原因を作ってしまいましたからねぇ、ここは私が責任をもって説明をします」
「あの、聞きたかったんだけれどもさ」
「はい?」
そういえばの疑問なんだが、
「私が向こうの時代に居る時代に、こっちは何日経ったの?」
普通に考えても、分かることでは無いから聞いてみることにした。
「あなたが向こうの時代に居る間、こちらの世界では……」と、ジョンが話そうとしたとき遠くから「みきーぃいいいいいぃぃ」という絶叫しながら走ってくる音が聞こえた。
その方向に振り向くとそこには真っ赤な顔をしては知ってくる監督の姿があり、気づいたころには私は監督に優しく地面に押し倒され「大丈夫ぅ? 元気だったぁ?」と変態的な息遣いとともに声を掛けられたのだった。
「大丈夫です、監督」
「よかった……」
私が大丈夫だというと監督はなきはじめ鼻水をたらしながら私を抱きしめた。ふと、ジョンのほうを見てみるとうざいニヤついた顔をしていた。全く持って腹が立つよ。




