第二百四十六巻目A 武力の保持と行使
そのあと私たちは通ってきた廊下を戻り、地上へと向かった。地上に出ると、太陽がやけにまぶしく私の視界を奪った。あまりにもまぶしいので、とりあえず下を向くことにした。
いつもであればジョンは「おやおや、下を向いているとは何か辛いことでもあったんですか?」とおちゃらけて言ってくるのだが、今日はどうもそういうことを言ってくる気配はない。
「さぁ、車に戻りましょう美希」
地上に出てから車に戻るまで、このセリフ以降ジョンの言葉はなかった。
車の助手席に乗りシートベルトをつける。そしてジョンは、「それでは発進します」と言って、エンジンを始動させ車は動いた。駐車場から出るまでジョンはかなり厳しい顔をしていたが、駐車場から出た途端「ふぅ……」と息を漏らして、さっきまでの厳しい顔もいつものように緩みまくった。
そして、運転をしながら「先ほどはすみません」と謝ってくるのだった。
「なにがすみませんなの?」
「いろいろとです」
ジョンは運転しながらいつものうざいにやけ顔をしながら私にこう言ってきた。
「実を言いますと、あそこのアリーナは今非常に危険な場所になっているんですよ。それで、分子縮小拡散移動中央装置の破壊も先ほど話したようにとても危険な行為なんですが、それよりももっと危ないことを防止するために、鉄の扉の向こう側に案内しなかったんですよ」
「もっと危ないこと?」
「そうです」
ウィンカーを出して、高速に続く道に入る。
「正直に言います。今、あそこのアリーナはただのアリーナでは無く時空庁という公的機関の支配下に入った研究施設になっているんです」
「研究施設?」
「そうです。時空庁というのはただの省庁ではなく自主的な防衛手段として武力の保持と行使が認められている機関なんです」
車は高速に入るために速度を出し始める。
「だからと言って、危ないことということはないでしょ?」
「まぁ、あなた方の感覚からしたら武力の保持と行使はさほど危なくないかもしれませんが、一般人の感覚からしたら十二分に危険なんですけれどもね。ただ、その武力の保持と行使が何に対して行われるかを聞けば、あなたも危険性が分かるはずなんですよ」
「?」
またウィンカーを出して高速に侵入する。そして、ジョンは少し真面目な顔になる。
「武力の保持と行使は織田信長を殺害するために存在しているのですよ」
高速に乗ったから注意力をあげるために真面目になったのか、深刻な話だから真面目な顔になったのかは分からない。ただ、一ついえたのはジョンの目から涙が流れているということだけだった。




