二十六巻目 下手に出たらどうですかねぇ~?
数秒間、俺のほうを生暖かい目線を向け、そしてゆるんだ口元からこう言葉を放ったのだ。
「あなたに、いいものをあげましょう」
ジョンは、なぜだか照れながら言ってくるんだ。その照れている感じが、またうざくてうざくて・・・どうしようもなかったよ。
「いいものって、なんだよ」
とりあえず、知りたかったので聞いてみた。普通に教えてくれるはずもないだろうけど。
「そうですねぇ、とてもあなたにとってはいいものですよぉ~」
案の定ジョンは、すご~くうざく言ってくるのだった。
「いいから早く教えろよ」
「まったく、時間を楽しむことも大切なのですよ? 日本人なら、そこらへんもわかってくれないと・・・」
「あいにく、俺は待つのだけは苦手なんだ」
「――そういいつつ、うつけ者を演じていたくせに」
「ん? なんか言ったか?」
「何でもないですよ。せっかくですし、いいものというものを教えてあげましょう」
ようやく教えてくれる気になったようだ。
ジョンは、紙やすりを地面に置き立ち上がり、袋のようなものをゴソゴソとあさり始めた。
「ジョン、お前は何をしているんだ?」
ジョンは、「まぁ、待っていてください。楽しみにね!」と答える。
ジョンは、とてつもなくご機嫌だ。
ジョンは、ものすごく気分が高ぶっているようだ。
そのぶんだけ俺は、気分を害しているのだけどな・・・。
「そうです! これですよ、これ!」
数分後、ジョンはどうやら探していたものを見つけたらしく俺を見ながら誇らしげな表情をしている。
「そうか。じゃあ早く見せろよ」
「えっ? 聞こえませんね?」
「はっ?」
聞こえない? どういうことだ?
「いくらあなたが織田信長だとはいえ・・・」
「だとはいえ?」
ジョンは偉そうに、ひどく偉そうにこういってきた。
「人にものを頼む時ぐらいは、下手に出たらどうですかねぇ~?」
やばい・・・。こいつ、殺さないと・・・・・・。
ちょっとだけ殺気を出してみるが、ジョンはそれに気づかずに、「さぁ、早く私にお願いをしてみなさい!」といってくるのだった。
こうなると後は俺の自尊心の問題だ。ここまでジョンに馬鹿にされながら自尊心を折り、そのいいものというものを手に入れるか。それとも、自尊心を保つためにジョンを切るか・・・。
「う~ん、どうするか・・・」
「ノブ、考えるまでもありません! はやく、下手に出るのです。それが正しい選択。正しい道なのですよ!!」
やっぱし俺、こいつ切ることにするよ。
ただ、ちょっとだけその“いいもの”を見てみたい気もする。ここは一つ、ジョンの言う通り下手にでて“いいもの”を見せてもらってから、こいつを切ってやろうと思う。
なるべく早く切ってやるからな。待っててくれよ、ジョン!




