第二百四十五巻目A 説得力
ようやく廊下の端っこまで来た。目の前には鉄でできた大きな扉があって、どうにも簡単には開きそうにない。
「あの……」と、ジョンはその扉を前にして、私に悲しそうな顔で聞いてくる。
「なによ?」
「本当に、壊すんですか?」
「壊す? あぁ、長い名前の装置のこと?」
「そうです。あれは、未来への懸け橋であり人類の技術の象徴なんですよ」
「それがどうしたの?」
ジョンは「はぁ……」とため息を吐いて、「どうすればいいのかなぁ」とか私には分からない英語とかでぶつぶつと言っている。私はそれを聞かないふりをしていこうと思う。
いくらかして、ようやくジョンのそのゴニョゴニョ声が収まりようやくこの扉をどうにかしてくれるのかと思ったら、コホンと咳払いをした。
「美希、はっきりと言います」 ジョンにしては珍しく感情的な顔で言ってくる。
「何?」
「あれは絶対に壊してはいけません。これは私の思いでは無くやってはいけないことなんですよ」
「なんで壊しちゃいけないの?」
「あれを壊すというのは……人を殺すことと同じなんですよ」
「人を殺す?」
いきなりこんなことを言ってくるもんだから、とうとう精神が逝かれてしまったのかと思ったら、ジョンの顔を見る限りはそう言う感じではないようだ。むしろ、しっかりと説明しようとしているように見え、いつものようなふざけは見えてこなかった。
「はい。詳しくは色々と複雑で、言ってはいけないこともあるので言えませんが、簡単に言ってしまえば人の存在理由を消しかねないものなんですよ」
「……?」
ジョンがここまでに熱心に進言してくるということは、かなり重要なことだとは思うけれどもどうにも私にはしっかりとした理解ができなかった。これは知識がないとかそういうレベルでは無く、本当に訳が分からないというレベルだ。
「もし、あなたがそれを壊したとなればノブはもちろん私の存在だって消えるかもしれません。あなただって消えてしまうかもしれませんよ?」
「……何で消えてしまうの? 私はただ装置を壊すだけなのに」
「装置を壊すだけで終わるのであれば優しい。ただ、この装置が……」
「装置が?」
ジョンは突然しゃべるのをやめてしまった。
「いや、なんでもないです。とにかく私はあなたをこれ以上先には行かせません。たとえノブが言ったことであっても、こればっかりは私は反対です。戻りましょう地上へ」
「……」
ジョンが真面目な顔をして言う。真面目な顔をするとこいつはものすごい説得力を持つ奴になってしまう。そして、そのすごい説得力は人を圧倒させるものだ。だから、私は
「……分かった。今はお前の意見をきことにするわ」
私は、ジョンに従うことにした。




