第二百四十三巻目A 弱気なジョン
―――
ジョンが運転する車と言うのは中々の乗り心地だ。車種も高級車と言うことで、椅子もふかふかだからとてもいい。ただ一つ文句をつけるとすれば
「いやー、それにしても今日は天気がいいですよ! 昨日まで曇り空が続いていたんですけれども、いきなり今日になったら晴天とはびっくりです!」
ジョンがやけにうるさいということぐらいだろう。
ただ、ここで「静かにしろ」と言ったところでこいつが黙るとは思えないし、むしろそれを言う事によってうるさくなるに決まっている。だから、大人の余裕というのを利用してここは黙っておこうと思う。
奴の声を聞き流して外を眺めていると、確かに去年の名残と言っていいか分からないけれども一言で言うのであれば祭りがあった後と言うのがちらほら点在していた。高速道路に乗ると、車線が広がっていて渋滞なんてものはほとんどなかった。海の方へと走り出したジョンの車は、台場インターチェンジで降りて地上を進んだ。
そして、一際大きな建物の前で停車した。
「さて、着きましたよ。美希」
「ここ?」
「ここです。今はまだ、去年使用していた建物しかありませんが何十年か後のここにはたくさんの分子縮小拡散移動装置が用意されて、東京万博のメインエリアとなるのですよ」
「メインエリアね……」
車の中から見る限り、メインエリアの感じはせずよく言って大きな体育館っていう感じだ。
信長様が書いた手紙によれば、この大きな体育館の下にもうすでに分子縮小拡散装置が設置されていて、起動実験を行っているらしい。ただ、今のところは本格的な稼働をしていないらしい。
「今からこの建物の駐車場に停めますが……本当に行くんですか?」
「あんたにしては弱気ね」
「これは弱気にもなりますよ……私だって公務員の端くれなんですよ? それなのに……あなたは知らないでしょうがこの実験は国家プロジェクトなんですよ? それに潜入するなんて私の首が飛ぶ可能性があるんですよ。それに、あなただって危ないかもしれない」
「この時代だとまだ国家プロジェクトになっていないんじゃないの?」
「……あなたはどこまで知っているんですか?」
確かにジョンが弱気になるのも分かる。公務員だとかそう言う事は知らないけれども、これはかなり危険な行動になるはずだ。
信長様曰く、この分子主教拡散装置が完全に軌道をして動き始めると将来的にかなり面倒なことになるらしい。しっかりとした情報があるわけでは無いけれども、信長様が「面倒な事」と言うときは必ずと言っていいほど重大な事件になる。だからこそ、ここは命をかけてでもその命に従わなければならないのだ。
「私がどこまで知っているかはどうでもいいでしょ? とりあえず、さっさと体育館の下に連れてって!」
「……後で後悔しても知りませんからね?」
ジョンはやけに弱気だった。




