第二百四十巻目A コーヒーたいむ
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私はどこかで眠ってしまい、どこかに飛ばされてしまった。信長様に似た何かと猿みたいなやつは何処にもいなくて、ましてや2015年でもないようだ。だけれども、どこか見たことのある施設で、もっと言うと今私が寝ているところもどこか懐かしい……。
「気づかれましたか、時の姫」
この腹の立つ声もなぜか懐かしく、ちょっと心で感動してきている。
人間と言うのは本当に面白い。人間である私がこんなことを言うのは何だけれども、こうも何も状況が分かっていず理解すら出来ていないのに、感動してしまう。本来であれば状況が理解出来ていないのだから状況の理解を進めるとか、そうでなければこの状況に警戒感を覚えるとかそう言う事をしなければならないはずなのに、なぜにしてこんな風に能天気に感動なんて出来るんだろうか。
「あぁ、気づいたも何も意識だけははっきりとしているよ」
とりあえず声を返してみる。挨拶と言うのは人間の基本だ。
「おぉ! あなたから私に対する言葉としては、なんと丁寧な言葉でしょうか」
「だからお前は信長様にもウザがられるんだよ」
「ウザさも愛のうちと心得ております」
愛のうちとはなかなか調子のいいことを言いやがる。でも、こういうことも愛おしくおもえる。
さて、ゆっくりと目を開けて飛び込んできたのは天井一杯に書かれている大きな文字。
そして、それを読み上げるように彼が声を発した。
「おかえりなさい、美希。実験のせいで変なことをしてしまいまして」
「やっぱり……ふっ」
少し笑ってしまう。なぜだか笑けて来てしまう。頬の筋肉が一気に緩んで、引っ張られる。これほどうれしい筋肉の硬直はない。
「あっ! あなたが私に対して笑うなんて何年ぶりでしょうねぇ」
「知るか……今は何年だ?」
「ふふっ…………聞いて驚かないでくださいよ?」
「驚くも何もないさ」
「おや、なんてつまらないんでしょう」
こいつはつまらないとか言って笑う。だけれども、その笑いはいつものようなウザさは感じなかった。子供の頃に食べられなかったものが大人になると急においしく感じるようなことあるだろ? それと同じ感じだよ。
「今は2021年。世間はイベントが終わってしまい暇を持て余しています」
「なんで私をそんな時代に連れて来たんだ?」
「あなたに、指令が下りました」
「指令? いったい誰から?」
指令なんてされる覚えはない。ましてや、あの人でない限り……
「あなたの良く知る人、彼ですよ」
こいつは話すときいきなり真面目な顔になりやがる。こいつとしゃべるときはいつもこう言う上下があるから難しい。
「信長、織田信長があなたに指令を下したんですよ」
「信長様が?」
「えぇ、そうですよ。彼も何の考えがあってあなたをこの時代に送るように言ったのかは分かりませんが、どうにも彼が真剣な顔つきだったのでその言葉通りに実行したまでです。私も実際のところそれの本当に意味は知らないのですよ」
「どういうこと?」
「どうもこうにも、さっき言った通り理由が分かりません」
ジョンの顔を見てもふざけている様子はなく、その言葉は事実だということが分かる。だけれどもそれが事実と分かったとして、私はどのように理解すればいいのだろうか。それが分からないでいた。
確かに信長様は奇想天外で凡人には理解できないような発言や行動をしたりする。だけれどもそれはどれも理に適っていて、その時代では「馬鹿げている」と言われたとしても、後の世では当たり前のように行われていることが多い。それの一端で今回の指示も下っているとしたらいいのだが、それにしても私のような凡人にはその意味が理解できない。もちろん、信長様からして見れば意味のあることなんだろうけれども、もし出来るのであればそれの意味について少し説明をしてほしいものだ。
どちらにせよ、信長様からの指示を受けてそれを実際に実行したのはこのジョンだ。この時代に来てからやるのは私だけれども、今はジョンの話をしっかりと聞いてどのように行動すればいいのか考える必要がある。
「ジョン、私はこの時代で何をすればいいの? 信長様から何か言われているんでしょ?」
「状況はうまく理解出来ていないようですが、やはりあなたはあなただ。しっかりとした忠義の心を持っている。だから、私は日本人が好きなのですよ」
ジョンはにやけて私に白い封筒を渡してきた。今気づいたことだけれども、今回は体を拘束されていなかった。
封筒を開けるために、封筒の口を破いた。中身が破れないように破いたつもりだけれども、もし中身が破れてしまっていたらちょっと悲しくなってくる。
「どうやら破れていないようね」
封筒の口を大きく開け、中身を取り出し破れていないことを確認した。三つ折りにされている紙は桜色の紙で、私はその紙を広げてみた。
紙には上と下の方には桜の花びらが描かれていて、紙の中央には文字がたくさん書かれていた。
一つ一つ丁寧に文字を読んでいき、しっかりとした事実をとらえる。最初の方はちょっとした挨拶が書かれていて、正直言ってどうでもいい内容だった。だけれども中盤になるにつれて、内容はどんどんと重要なものにになっていき、読み終えた最後にはしっかりと信長様の指示を理解することが出来、何をすればいいのか分かることが出来た。
「……なるほど」
「何か分かりましたか、美希?」
「分かったというか、指示が全て書かれていたわ」
「ほぉ、ノブもなかなか古風なことをしますね。で、まずは何をするんですか? 私に協力できることがあれば手伝いたいのですが」
「本当?」
「えぇ、本当です。私はノブに借りがありますから」
「借り?」
ジョンが言った借りといっていた事はよく分からないけれども、とにかく協力をしてくれるみたいだ。
「とりあえず、信長様の指令にあった東京万博っていうのを私に教えてくれないかしら?」
「分かりました。ただ、ここだとしっかりとした説明が出来ないので、会議室へ移動しましょう」
「分かったわ」
説明を受けるために、とりあえずジョンの指示に従って会議室へ移動することにした。
―――
「さて、あなたにコーヒーを入れるのもかなり久々ですね」
「私は最近もらったばかりだけれどもね」
「ははっ、まぁ時間は流れてしまいましたから」
会議室と言うのは儀礼的なもので、実際のところ中にあったのは前にジョンがコーヒーを飲ませてくれた中庭にあったテーブルとイスだけだった。私はその椅子に腰かけ、ジョンが持ってきたコーヒーを飲んだ。
「やっぱり、ジョンが作るコーヒーは悔しいけれどおいしいわ」
「そう言っていただけると幸いですよ。クッキーもありますから食べてください」
「えぇ、いただくわ」
私はコーヒーとクッキーを食べ少し幸せな気分になっていた私だが、ジョンがある書類を机において、「さて、説明を始めさせてもらいますよ」と言われ真面目な気分に戻った。
「あなたが言っていた東京万博。しっかりと理解できるかは分かりませんが、その万博は2115年にその名の通り東京で開催されるものです」
「2115年……つまり私が今いる2021年から94年後って事?」
「そうなりますね」
「ふむ……」
もし信長様の手紙がなかったら、全く理解できなかったけれども、ちゃんとした理由があって、その理由がしっかりと理解できる今であれば十二分に分かることがある。
「東京万博のテーマは未来への希望と夢。ここ最近世界では未来ビジネスと言うのを重視するようになりまして、安藤……あなたは知らないと思いますがあの人が率先してやっているらしいのです。それで、今から94年後の未来ではそのビジネスが実を結んで若干で素が実現して、万博のテーマに採用されたというわけですよ」
「なるほどぉ……」
信長様は決して東京万博のことに着いて書いていたわけでは無かったけれども、確かにジョンが言った通りならば、信長様が出した指示も正しいと理解ができる。確かに理に適っているからな。
「ただ、あなたがそんなことを聞くなんて珍しいですね。あなたは容姿に似合わず細かいことが苦手で、大雑把にしか行動しませんから、事の詳細を知るために東京万博のことを知るなんて……」
「大きなお世話よ!」
「はは、それぐらいの大きな声があなたらしいですよ」
「……」
大きな声が私らしいってどういうことよ。私は、自分で言うのもあれだけれどもおとなしい方だと思うのに……。
ジョンはコーヒーをのでにっこりと笑った。「いや、やっぱり淹れたてのコーヒーは格別ですね。缶コーヒーもおいしいですが、これとは比べ物にならないほどですよ」と言いながら、コーヒーを飲む。
「ただ一つ残念と言えば、昔のように中庭でコーヒーを飲めなくなってしまったということでしょう。悲しいことに今あそこには資材がたくさん置かれているんですよ。だからこんな小さな会議室でコーヒーを飲んでいるんですよ。少し雰囲気は落ちてしまいますが、その分だけコーヒー本来の味を楽しめるというものです」
「はいはい」
ジョンはコーヒーにはかなりうるさい奴だ。それに、うんちくもたまに垂れてくるから流さないと身が持たない。
「それで、美希。私がこうして東京万博のことを話して何か分かったことでもあるんですか?」
「うん、結構分かったわ。なんで信長様が私をここに送ったのかとかを」
「ほぉう、私にそれを一つお教え願いませんかねぇ?」」
「嫌よ、どうせ言ったあんたには分かんないと思うし」
「私はこれでも、理解力に関しては他の人よりあると思っているのですが」
「理解力とかそう言うのじゃないのよ」
「じゃあ、何ですか?」
「うーん……愛の力?」
「気持ち悪いですね」
「うるさい」
何と言えばいいのかしら。本当に、よく分からない。だけれど人並み以上に信長様のことは分かる。本当に何なのかは分からないけれども。
「とりあえず、私をその東京万博の会場の場所……タイムズエリアの会場に連れて行ってくれないかしら?」
「分かりました、そこに何かあるんですね?」
「そうよ、とっても大事なものがあるらしいの」
コーヒーをもう少し楽しんだら、タイムズエリアに向かうことにしよう。
「ところで美希、一つ聞いておこうと思っていたんですが……」
「ん?」
私が楽しくコーヒーとクッキーを食べていたら、ジョンが何かを私に聞き始めた。
「いや、私の不手際で変な時代に飛ばしていしまったのは申し訳ないと思っていますが、それはそれとして、研究の材料としてあなたが飛ばされた時代で何があったのかを教えてほしいのですよ」
「ふぅん……なるほどね」
研究の材料っていうのはなんか気に障るけれども、文句も言いたいいしどうせだからジョンに体験してきたことを話してあげるのもいいかもしれないわね……。
「分かった、いいわよ」
「ありがとうございます! これで研究がはかどるというものですよ」
「これは一体何なの?」 白い封筒には何も書かれていなかった。
「封筒です。さすがの私もノブからのものを勝手に読もうなんて下衆なことはしませんよ。あなた宛てで封もしっかりと閉じられている物です。中に何が書いてあるかは分かりませんが、きっとノブからの指令の詳細が書かれているんでしょう。多分」
「なによ、その適当であいまいな表現は」
「美希、あいまいな表現と言うのは美しいものですよ」
「美しくてもこうも重要なことを的確じゃない風に言われると困ってしまわよ」
「何も的確なことが正しいとは限りません、まずは事実をしっかりと受け止めるのが先決ではないのかと、私は考えますよ?」
「むぅ……」
確かに、ジョンの言い分が正しいといえる。とりあえず、今が私が一番の事実だと思う物を見てみるとにしてみる。




