二十五巻目 とても尊いものなのです
・・・っと、まぁ、俺はこんな感じで未来に来て楽しく暮らし始めた。
最初は慣れないことばかりで色々と苦労もしたけれども、ジョンやみきとも知り合いに助けられて、ちょっとだけ性格が変わっちゃったりしているけれども、とりあえず何とかできている。最近ではジョンが熱心に、でーぶいでーというものを僕に見せてきて、騒がしいけれども二人で見てそれを楽しんでいる。今は、主人公の男が戦国の世に来て、俺のもとで働いて、俺と一緒に敵を倒すっていうアニメを見ているんだけれども、・・・・・・やっぱし俺って格好いいね。創作物でこれだけ俺のかっこよさを引きだしている、これを作った作者も素晴らしいし、いちばん素晴らしいのはこの物語の主役とともに行動をする織田信長という登場人物。いやはや、感情移入してしまうほどだよ・・・。というか、俺ってこんなに強かったかな? こんなにバッサバッサ切らなかったと思うけどな・・・。それにしても、この物語で唯一の欠点。これを解決出来たら、この物語は日本を代表する物語になるはずなのに・・・。
俺、そんなに人を信じた覚えはないぞ? 未来から来たっていう訳の分からないやつを、そう簡単に俺が信じるわけないじゃないか。今の人間はいろいろとすごい技術を開発をしているけれども、やっぱし俺のことをあんまり分かってはいないんだな。
いつかは、俺の正体をばらしてもっと俺を崇拝してもらいたいものだよ。
ただ、この快適な日常の中で一つだけ、心残りができてしまったのだ。
その心残りというのは・・・
「あぁ、欲しいものができてしまったよ。欲しいものがあるのだよ、ジョンよ!」
「うるさいですよ、ノブ」
そう、欲しいものができてしまったんだ。もの凄く欲しいものができてしまったんだ。
欲しいものができた発端は、みきと初めて会った四日後だ。
その時ジョンは、みきが買ってきてくれた限定版のプラモデルを組み立てていた。ようやくその時になって俺はジョンに、「これは“プラモデル”というもので、とても素晴らしい人類の発明なのです」と聞かされ、限定版についても「“限定版”というのはそれはとても、とても尊いものなのです。今回は何の説明もしていなかったので、水に流しますが次はないですからね」と、笑いながら、にやにやしながら言われた。すごく腹が立ったけれども、新しい知識を手に入れられてとてもいい気分だ。欲しいものや、新しい知識を手に入れた時のこの高揚感はなんなんだろうね。とても不思議だよね。
そんなことはどうでもいいんだ。一番重要なのは、その限定版のプラモデルについてだ。ジョンは紙やすりというもので組み立て終わったプラモデルを整形していた。今度のプラモデルは、俺が作っていたプラモデルとは違い、でんしゃ、という乗り物プラモデルらしい。
普通の人間ならこういうものを買わないらしいが、ジョン曰く「この時代の情報を仕入れるためですし、私は多趣味ですからね」とのことだ。なぜこの時代の情報を仕入れなければいけないのかは、分からないけれども、なんだか楽しそうだからいいだろう。
ジョンは鼻歌交じりで紙やすりをかけているが、突然手を止めて俺のほうをジロッと向いた。
「なんだよ、ジョン?」
「いやぁ・・・」
ジョン、いつも通りにやにやしながら俺のほうを向いている。いつも通り、腹が立つな。




