特別編 東京スーパーカーショウの事件簿 第七話
「なるほど……わかりました。どうやら、本当に知らないようですね」
「そうなんです」
幸田さんはボールペンを自分の顎に当てながらカチカチとしながら俺のことをじっと見ていた。そして小さな声で「このまま帰るわけにもいかないからなぁ……」とつぶやいていた。
「あのぅ、お話し中失礼いたします」
突然、この少し緊迫した空間を切り裂いて入ってきた人物が現れた。見てみると、そこには髪を後ろで結んで名札をぶら下げたスーツ姿の女性が居た。ビジネスメイクをしていて少し顔は派手な印象だが、暗いところでは美しく見えることだろう。
「私、今回案内をさせていただきます藤枝とお申します。……その、伺っていたのが男性一人と女性一人の計お二人様だったんですが……その、その方はお連れの方でしょうか?」
「いや、ち……」
「そうです! 少し遅れて着てしまって連絡が遅くなりましたが、三人でお願いします!」
「あっ、承りました。それでは会場の方をご案内させていただきます」
案内の人が人数が合わないことに疑問を感じて俺に聞いてきて、俺がそれを否定しようとしたら幸田さん、なぜか三人連れだと言ってくる。別に人数が増えることは構わないけれども、なぜこんな風に喰い気味に言ってきたんだろうか。全く持って不思議でたまらない。
俺は小さな声で幸田さんに聞いてみる。
「幸田さん。なんで、三人連れだなんて嘘をついたんですか? 俺と美希二人で案内を受けるはずなのに」
「織田さん、世の中多少の嘘をつかなければ、好機というものは過ぎていってしまうんですよ。私にとっての好機はまだ過ぎて行っておらず、今まさに私の手の中に転がり込んできているんですよ」
「?」
俺はどうも複雑な話をされるとダメらしい。もう少し優しくしゃべってはもらえないだろうかね。美希もなぜだか浮かない顔をしていて、それなのに目はらんらんとこれからの楽しみに対して輝いている。こんなにも複雑な状況、俺が耐えられるわけもなかった。
案内の人が「ただいまからご案内します場所は、一般会場の入り口になりますエントランスゾーンという場所です。後、十分いたしますと一般入場が開始になりますのでパパッとご案内したいと思います」と言うと、美希は「おぉう!」と威勢のいい声を出した。女の子らしい威勢のいい声だから、中々深いものだった
エントランスゾーンと呼ばれる場所には、案内の人曰く最近発売したばかりの車種が十社十二台並べられていて、きっと入場した人の心を惹きつけることだろう。全く車に興味のない俺が少し気になってしまうほどだから、車好きであれば狂うほど喜ぶことだろう。
故に、ここで一人狂い始めてしまう者がいた。




