特別編 東京スーパーカーショウの事件簿 第六話
俺たち二人が男の人に対して疑惑の目を向けながらお茶を飲んでいると、男の人も自分が怪しまれている事に気づいたようで慌てて胸元から名刺を取り出しながら「申し遅れました、私の名前は幸田宗次、陽明出版という会社で車関係の記事を書いている者です」と言った。彼はニコニコと笑いながらそう言ってくるものだから、さらに怪しさを増していったが、自己紹介をされて、こっちは自己紹介しないというのは礼儀に反するのでとりあえず自己紹介はしておこうと思う。
「私は織田……です」
「織田さんですか……そちらの女性は?」
「俺……私は、美希だ」
「美希さんですね……分かりました!」
名前の復唱は大きかった。
復唱が終わった後幸田さんはニコニコとしながら「今回あなた方に話を掛けたのはですね、まぁさっきも言った通りこの会場では珍しい普通の服を着ていたからなんですけれども……もしかして何ですけれども、安藤さんのお知り合いですか?」
「……そうですけど?」
なぜ、幸田さんが彼のことを知っているのだろう。そして、俺が彼の知り合いだということを告げると彼はものすごい笑顔になった。
「本当ですか! 本当に安藤さんの知り合い何ですか!?」
「そうですよ」
「いやぁー……本人に会うことは不可能だと思って知り合いの方に会えればと思ってここに来たんですけれども……まさか、ここでこんな風に会えるとは……」
「?」
よく分からない。いったい、彼になぜ会いたいと思っているのだろう。それに、なんで知り合いの方でもいいと……訳が分からない。
「織田さん、早速何ですが取材をしてもいいですかね? もちろん無理なのであれば別にいいんですが」
「取材と言っても、俺に何の取材を?」
「とぼけないでくださいよ! ハハッ!全く……安藤さんといったら今の経済界の重鎮じゃないですか! その人が今回来場しないってことで知り合いを送り込んだとうわさには聞いていたんですが、まさか本当に送り込んでいたとは……それで直接取材が出来るなんて……」
「だから、俺に何の取材をするんですか?」
「……心当たりとかは?」
「全くないですよ」
本当に心当たりなんてない。俺はただ単にチケットを渡されただけだし、正直偽美希が興味なかったら行かなかったかもしれないぐらいだ。いくら社会見学だとしても興味がなさすぎるからな。
幸田さんは俺がそう言うと「えぇ……」と声を漏らして、「本当ですか?」と尋ねてきた。
「本当ですよ」
「今後の日工自動車と本戸自動車の統合案についても何も?」
「なんですか、それ?」
「……」
絶句と言った表情をして、幸田さんは黙ってしまった。なんか悪いことをしてしまった感じがする。




