第二百二十八巻目 かなり驚いた
明日特別編を投稿します
食べ終わった後、俺は渡部さんは「それでは出口までご案内いたします。秋葉原駅まで送迎の係りの者がお送りいたします、ご安心ください」と言って俺を連れて出口まで行った。出口は最初に入ったこの会社の入り口と真逆の場所に位置するであろう場所で、入り口よりも大きなスペースがあり、出口はガラス張りの自動ドアで外には車を停められるようなスペースがしっかりと用意されていた。
「少し待っていてください!」
と、言って渡部さんはパカパカ開くタイプの携帯電話を取りだして電話を掛けた。百年後の世界にこの形態が存在するとは思ってもいなかった。渡部さんが電話をかけている先はどうやら送迎の係りの人らしくて「お客様到着しましたので、秋葉原まで送迎をお願いします」と、言って通話を終えた。
終わってからしばらくして、黒い高級車が門のところからゆっくりと入って、入り口のところに止まった。
「それでは行きましょうか」
自動ドアを通り外へと出る。そして、黒い高級車の扉を渡部さんが開いて「どうぞ、またお越しください」と言ってくれた。
「今日はありがとうございました」
「いえいえ。こちらこそ」
渡部さんはにっこりと笑って、そして扉をしてめくれた。高級車の中には俺と運転手さんの二人だけだ。
「それでは秋葉原駅まで送らさせていただきます」
「お願いします」
運転手の人は初老と言った感じで、さわやかな笑顔で迎えてくれた。そう言う雰囲気だと安心して車に乗れるよ。
秋葉原に着くまでの少しの間、車内でゆったりと町の景色を眺める。まだ昼過ぎだから人も多くとてもにぎわっている。今までいた秋葉原とどこか同じようで、どこか違かった。
「お客様」 運転手さんが話しかけてくる。
「なんですか?」
「お客様は、非常に変わった顔をなさっていらっしゃいますね」
「それは、顔の特徴について揶揄しているんですか?」
「いえ、誤解させてしまい申し訳ございません。ただ、現代の人間にはないような勇ましさを感じましてね」
「それは、目の疲れからそう見えているだけですよ」
「ははっ! これは目を癒さなければなりませんね」
他愛もない話だ。ただ、こう言う話が俺は一番落ち着くし一番好きだ。
そして、秋葉原駅に着いた。
駅に着いた後、普通に電車に乗った。初見では驚いたけれども、さすがに一回見れば慣れてしまう。
そして、最寄りの駅に着いて普通に家に帰った。別にすることもないし、何をすればいいのかも分からない。それに、帰るように彼女に言われたし、そう言うことで家に帰ることにした。
そして、家に帰ると
「おぉ、ノブ。やっぱりこっちに来ていましたか」
「……」
「黙りこけるなんて、あなたらしくない」
「……いや、なんでお前がいるんだよ」
「何か問題でも?」
お茶を飲みながらゆっくりしている奴が、そこにはいた。正直かなり驚いた。
「ジョン、いったいこれはどういうことなんだ?」
「どういうことと言われましても、私は何を答えればいいんでしょうか」
ジョンがなぜここにいるのかよくは分からない。だって昨日……百年前の昨日には帰ってこなくて、いきなり百年後に飛ばされてスマートフォンを見てみると指示を出してきて、それでその指示に従って動いて帰ってきたら、今度は家に戻ったらそいつはお茶を飲んでいる。これをしっかりと認識して理解しろという方が無理があるだろう。百年後にいきなり飛ばされたのも混乱しているというのに、さらに混乱させて何が楽しいんだろう。
「ノブ、なぜだかは分かりませんがすごく混乱していますね」
「分かってくれよ、ジョン」
「分かってくれよと言われても、何を分かればいいのやら」
ジョンは頭をポリポリと掻きながらそう言ってくる。確かに俺の気持ちを理解しりというのもまた難しいと思うが、それ以上に理解してもらわないと壊れてしまいそうになるんだ。俺の頭が。
さっきの会話から数秒間沈黙が流れる。俺の額に冷や汗がたらりと垂れ、ジョンもそれに気づいて、少し考えた後、こう口にした。
「まぁ、ノブには悪いことをしてしまいましたね。それは謝っておきましょう」
「そうか……」
謝ってもらったけれども、別に今ほしいのは謝罪では無く説明だ。
「じゃあ、ジョン。なんで俺は百年後に飛ばされたんだ?」 俺は本質的なことをジョンに聞く。これを聞けば今ほしいものはすべて手に入るからな。
ジョンが口を開いて俺の望む答えを発するかと思った。普通であれば、望む答えを発するんだが、なぜかジョンは望む答えを発することはなかった。もちろん俺が望む答えというのは無理難題では無く、さっきから言っている通り説明だ。つまりはそう言うことだ。
「さぁ、私にもノブがなんで飛ばされかは分かりませんね」
本気で殴りたいと思ってしまった。だけれども、ここでけがを負わせてしまうのはもったいなかったのでやめることにした。殴るんだったら、もう少しイラついた時にする。
「まぁ、ノブ。一つだけあなたに言うことがあって私はこの家に戻ってきたんですよ。それと、ノブが求めている答えが一致しているかはわかりませんが、この時代に連れてこられた一つにヒントになるかもしれませんね」
理由は分からないのに、ヒントは持っているというのはどういうことだろう。ジョンの言っている事はたまに訳の分からないものがある。
「ヒントってなんだよ?」
「それを今から説明しますから、焦らないでくださいよ」 ジョンはにっこりと笑いかける。
焦るなと言われても、理由も分からずこの時代に連れてこられた人間が焦らないのは少し不自然だ。
ジョンはお茶を飲み干し、次に飲む用のお茶を注いでから「コホン」と咳払いをしてから「それでは、説明を始めさせてもらいますよぉ!」と言った。
「ノブ、私が未来からやってきたということは前から散々言っていますよね?」
「あぁ、言ってるな。信じてはいないけれども」
「信じてくれていないとは心外ですが、まぁ未来人なんですよ」
「分かった」
「それでですね、ここからが本題なんですが……これを見てくれますかね」
「?」
ジョンはそう言うと机の下に置いてあったジョンのものらしきバッグの中から書類を取りだした。そして「どうぞ」と言って俺に手渡した。
「第一次時空調査計画の時空庁時間調査委員会の報告?」
「内容を深く語るつもりもないですし、さすがのノブでも呼んでも理解できないと思います。ただ、一つ言えるのはこれのせいで今私が困っているということですね」
「全く意味が分からない……」
「いいんですよノブ。あなたはすべてを理解する必要がないんですから」
そう言われると、何だか悔しいけれども確かに無理やり理解する必要はない。
「実を言いますと、今未来ではかなり危険な計画が立てられてしまいまして……」
「おう」
「その計画というのが、T-HGW軸消去計画と呼ばれるものでして、これが本当に厄介な計画で困るんですよねぇ……」
ジョンは笑いながら下を向いて、俺に見えないように唇を噛みしめた。よっぽど辛いことがあるんだろうが、ぶっちゃけ俺にはどうでもよかった。さっさと、この状況を説明をしてくれればそれで俺はいい。この際、他人のことを気にする必要はない。
「詳しい内容を簡単に説明するのはものすごく時間がかかってしまうことなので、とりあえず今日のところは止めておきます。だけれども、一つだけあなたに話をしておきます」
「なんだよ」
ジョンはいつになく真面目な顔になり、その顔からは真剣に聞かなければいけないと聞き手の心を動かすような意図も感じられた。
「ノブ。あなたはもしかしたら、ただの箱なのかもしれません」
「……箱?」
こいつは、何を言ってやがる?
もしかしたらこいつの言うように、俺はただの箱なのかもしれない。だけれどもそれには抽象的すぎる話だし、いきなりそんなことを言われて俺が「そうだ、俺は箱だ!」というとでも思っているのだろうか? そんなはずあるわけが無いだろう。そんなことを言われたらぶん殴りたくなるだけだ。
どうやら俺が箱の話を聞いてイラついているのをジョンも察したようで、「まぁ、落ち着いてください! 話はまだ終わっていませんからと」言ってきた。どうやら、今の説明だけじゃ納得はされないということは自覚していたようだ。
「ただの箱というのは比喩です。本当に箱だとは思っていませんよ」
「当たり前だろ!」
「怒らないでくださいよ。怒りやすい人は、寿命も短いと言いますし」
「大きなお世話だよ……全く」
なぜジョンは余計な一言をいつも付け足してくるんだろう。
「さて、私が本当に言いたい事と言うのはあなたの本当の姿についてです」
「本当の姿?」
「これを見てください」
ジョンはまたバックの中を探り一枚の紙を取りだした。いや、神というよりかは写真なのかもしれない。
「どうぞ」
ジョンは裏返しのままその写真を俺に手渡した。全く、なんで裏返しで渡す必要があるんだろうか。
「見てもいいか?」 とりあえず裏返しで渡されたことだから、見てもいいか確認をとる。
「はい、見てください」 冷静なトーンでジョンは言ってくる。
確認も取れたことだし、表にして写真を見てみる。どうせどうでもいいような内容の写真だから、何の感情もなく見てみた。
「……?」
「ノブ、どうかしましたか?」
「……いや、なんでもない。この写真を俺に見せてどうするつもりだったんだ?」
「これからの説明をするための一つの材料にしようと思いまして」
「あっ、あぁ、そう言うことか」
「ノブ、どうしてそんなに動揺しているんですか?」
「動揺なんかしてないよ」
動揺なんてするはずがない。だって、見た写真は見たことが無い内容だったんだから。だけれども、なぜかその写真の内容は懐かしく心の奥底で何かを感じてしまった。写真の内容は近未来的な街並みが広がる都市のビル群の中で撮られたものだから、そもそも写真という文化がない時代の俺がその内容を知るはずもないのに、なぜ懐かしく感じてしまうのだろうか。しかし、知るはずもないのだからこの写真を見て動揺なんてするはずがない。それなのに、どうして……分からない。
「まぁ、ノブが動揺してるかしてないかなんてどうでもいいんですけれども、その写真に写っている人物。それこそがあなたなのではないのかと踏んでいるのですよ」
「は?」
「その写真の人物は、あなたじゃないんですか?」
写真なんて撮られたことないし、ましてやこんな近未来的な場所に言ったこともない。
「俺のはずがないだろう!」
「まぁまぁ、そんなに怒らないでくださいよ」
「怒ってない!」
「まったく……ジョンは最近怒りっぽいですねぇ」
「誰のせいだと思ってるんだ」
「さぁ? 分かりませんねぇ」
ジョンは笑いながら言う。もちろん俺は怒ってはいない。イラついているとそうなのかもしれないけれども、怒るまでの沸点には達していない。ジョンのそのウザったい笑顔、言動は癪に来ることだけは認めよう。
ただ一つ言えるのはジョンがあんな風に言うと言うことは、何か確信があって言っているということだ。もう少し言い方をしっかりとしてくれれば、しっかりとした対応をとるというのに、言い方というのは相手の態度も変えてしまうようなものなんだから、もう少ししっかりしてほしいと思う。奴は、ウザささえなければしっかりと物事を考えられるいい奴なんだから。
「ただ、ノブ。よくは分かりませんがこの写真は紛れもなくあなたのものらしいんですよ。もし文句があるであれば私では無く、私の上司に言ってください」
「文句はないが、あり得ない話すぎて困ってるんだよ」
「私としては、あなたがこの時代にいる事の方があり得ませんけどもねぇ」
そんなことを言われても、俺が望んでこの時代に来たわけじゃないから何も言えない。
「どちらにしても、私がノブに対して出来ることと言えばこの時代の詳しいことの説明と、食料の調達方法ぐらいですかねぇ……」 ジョンは笑いながらそう言ってくる。
「そう言えばなんだが、お前は俺がこの時代にいる事を知っているんだ? お前が意図して呼んだわけでもなく、さっき会った時の感じからだと俺がここの時代にいるという確信もなかったようだし」
「確信も何も、うわさを聞いて、もし会えたら話をしようと思っていただけですから」
「本当にそれだけか?」
「それだけです」
それだけか? とは聞いたものの俺にとってはそれだけがどれほど大きいものなのかはさすがのジョンにも分からないだろう。
「まぁいいや。とりあえず、多少は腹が立ったけれども少しは気が楽になったよ」
「なぜジョンが腹を立てなければいけないのかはわかりませんが、気持ちの整理がついてくれたのであれば幸いです」
ウザったいジョンだけれども、いつもの感じで会話すると心が安らぐものだ。やっぱりいつもの会話というものはどんなものにも負けない癒しであり、心安らぐものだ。
少し、苛立ちを抑え込み懐かしいウザさに心の癒させて落ち着かせる。するとゆっくりと座ることが出来、ジョンが「どうぞ」と置いたお茶をすする。お茶の味はいつの時代も変わらず美味しかった。
だらぁっと座って、のんびりとしていたのだがこんなことをしているとふと「こんなことをしていて本当にいいのだおるか」と恐怖心が芽生えてくる。恐怖心が芽生えたからと言って俺はそれを払拭しようとは思わないけれども、恐怖心と言うのは人が忘れていたことを思い出すきっかけになってくれる。
なぜだか分からないけれども急に尻がかゆくなってきたので絵、尻を掻こうと服の上から掻きだしてみると尻ポケットのところに何かは言っている事に気づく。尻ポケットからその何かを取りだして見てみると、それはさっき彼女からもらった封筒だった。そう言えば、彼女はジョンの存在を知っていたようだった。
俺は封筒を開けようと思い、封筒の上をちぎって中身を取りだそうとしたときジョンが「おや? それは何ですか」と間の抜けた声で聞いた来た。奴、煎餅を片手に持っていたから少し気を抜いていたな。別にいいんだけれども。
「これは、藤巻さんからもらったやつだよ」
「ふじま……き…………藤巻!?」
俺が藤巻さんからもらったものだと明かすと、ジョンは一瞬考え、そして今まで聞いたことがない大きな声で彼女の名前を叫んだ。
「どうしたんだよ」
あまりにもいきなり大きな声を出したので、俺はジョンに尋ねた。
「い、いや。まさかあなたから彼女の名前が出るとは思ってもいませんでしたから……」
ジョンはあからさまに動揺しているが、それは演技なしの本当の動揺だった。
ジョンが動揺している姿なんて、大きな声を出す以上に見たことがない。ジョンは、なぜだか分からないけれども心が座っているから、どんなことでも動じずに変な返しをしてみたり笑いを誘おうとしてくる。それなのに今は動揺して、自分を納得させ気持ちを落ち着かせることに専念している。つまり、今ここにはいつものジョンが居ないわけだ。
そこで俺は少し意地悪をして、鎌をかけてみることにしてみた。いつもであればボロを出さないけれども、今ならもしかしたら……という好奇心の下でやってみる。別にぼろを出さなくてもいいと思っている。
「お前と藤巻さんってどんな仲なんだ?」 鎌をかける際は、まず下準備が必要だ。
まずは優しく、聞いてみることが必要なんだ。
「ど、どんな仲と言われましても……普通の仲ですよ!」
こいつ、あからさまに動揺してやがる。
「普通の仲って何なんだぁ?」 俺は笑いそうになるのを我慢しながら聞いてみる。
「普通の仲といったら、普通の仲……ですよ」 ジョンはトーンの低い声で言う。
もっと鎌をかけてみたくはなったけれども、少しかわいそうに思えてきた。
「そう言えばノブ、その封筒の中身は見ないんですか?」 元気がない声で、ジョンは言ってくる。
「見た方がいいのかな?」
「見た方がいいと思いますよ、あの人のことだから」
ジョンがあの人と言うのは珍しい。いつも彼女とか彼とか無駄に代名詞を使ってくるからちょっとはかっこいいと思っていたけれども、ジョンがあの人とか使うとちょっとイメージと違うから不思議な感覚に陥ってしまう。
「じゃあ、とりだすぞ」 ということで、俺は封筒の中身を取り出すことにした。
封筒の中に入っていたのは、一枚の紙でその紙は三つ折りにされていて、中は見えないようになっていた。
だから、俺はそれを開いて中身を見た。中身はパソコンで書かれたと思われる文章とグラフが書かれていた。題名には第二次時空調査報告書と書かれていた。さっきジョンが言っていた第一次時空調査計画の時空庁時間調査委員会の報告と何か関係があるのだろうか。どちらにせよ、俺にはよく分からないので「ジョン、あげるよ」とジョンに渡すことにした。
「なんですか?」
「俺にはよく分からないから、お前だったら分かるやつだと思う」
「何ですか、それ?」
「まぁ、いいから見ろよ」
ジョンは紙を受け取り、中を見た。すると目を丸くして「ノブ、お手柄ですよ!」と言ってきた。
「これで……私の仕事も最後の段階に移せますよ」
良くは分からないけれども、ジョンはものすごく喜んでくれた。いや、喜んでいるというよりかは感動していると言った方がいいのか?
「ノブ、早速ですが私は少し仕事をしに出かけます。あなたには残念ですがもう少しだけこの時代にいてもらいます。大丈夫、食料や金銭的なことは大丈夫ですから。すべて任せておきますから」
「何を誰に任せるっていうんだよ」
「それは後で考えることにします」
「なんだよ、その適当な考えは」
「適当と言うのは、必死に考えて作られた精密な機器よりも難しいものなんですよ」
「どういうことだよ?」
「適当に作っているから、考えもしないようなものが出来上がってしまうんです。だから、私に任せておけば大丈夫です」
ジョンの言っている事はいつも通りよく分からなかったけれども、とりあえずここまで大丈夫と言うんだから大丈夫なんだろう。うん大丈夫、きっと大丈夫。
……こうやって自分に納得させないと、怖くて怖くて仕方がない。別に、この時代で生きていくことが不安とか、ジョンの言っている事が訳分からなすぎるから怖いという訳でもない。ただ、自分が納得できず自分が自分でいられるかが怖くてたまらなかった。
「それでは」と、ジョンは言って立ち上がった。そして、「このカードを受け取っておいて下さい。このカードは魔法のカードですから」と言って黒いカードを渡してくれた。
「このカードの使い方はいたってシンプルですが、今は説明を省かせてもらいます。いずれ分かりますから、今聞こうと思っていならあきらめてください」
いたってシンプルなんであれば説明を省く方が無駄な気がするけれども、まぁいいだろう。
「今日は、もう家で休んでいてください。もうやることもないですし、やる必要もないですから。明日になれば、あなたの役に立つ一人、確実にあなたのことを知っている人物を一人この時代によこすことが出来ますから」
「確実に俺のことを知っている人物?」
「今ここでそれをばらしてしまったら、明日の楽しみがなくなってしまいますよ?」
……。
ジョンは、荷物をまとめ「それでは、また」と言って外へ出てしまった。ついていって、追求でもすればいいのに俺ってやつはついていくことをしなかった。なぜかは分からなかったけれどもそういう気分にならなかったのだ。もし、ここでついていくことをしていたのであれば何か変わったのかもしれない。だけれども、一時の気分と言うのは何かを変えるとことよりも重要なものなのだ。
さて、この時代にこの部屋に自主的に幽閉されてしまった俺だが、やることがないというのは当たり前だが死活問題だ。死活問題という割には生活は保障されているわけだけれども、やはりやることがないというのはとてもつまらないものだ。
つまらないことを延々と続けるつもりはないし、詰まるところ俺にはやる気というものが存在していなかった。はっきりと言って、ここまでやる気のないのは初めてだ。
元々いた時代では命を懸けて戦っていたから、やる気があるというよりかはいつも神経を張って生きて来た訳だし、2015年でもアルバイトという大きな仕事があったからしっかりとやる気のON・OFFがついていた。
だけれども、この時代に来てからというものやることがなさ過ぎてやる気がなくなり、やる気がなくなったことでやりたいこともなくなってしまった。どうすればいいんだろうかな。
「ノブ、早速ですが私は少し仕事をしに出かけます。あなたには残念ですがもう少しだけこの時代にいてもらいます。大丈夫、食料や金銭的なことは大丈夫ですから。すべて任せておきますから」
「何を誰に任せるっていうんだよ」
「それは後で考えることにします」
「なんだよ、その適当な考えは」
「適当と言うのは、必死に考えて作られた精密な機器よりも難しいものなんですよ」
「どういうことだよ?」
「適当に作っているから、考えもしないようなものが出来上がってしまうんです。だから、私に任せておけば大丈夫です」
ジョンの言っている事はいつも通りよく分からなかったけれども、とりあえずここまで大丈夫と言うんだから大丈夫なんだろう。うん大丈夫、きっと大丈夫。
……こうやって自分に納得させないと、怖くて怖くて仕方がない。別に、この時代で生きていくことが不安とか、ジョンの言っている事が訳分からなすぎるから怖いという訳でもない。ただ、自分が納得できず自分が自分でいられるかが怖くてたまらなかった。
「それでは」と、ジョンは言って立ち上がった。そして、「このカードを受け取っておいて下さい。このカードは魔法のカードですから」と言って黒いカードを渡してくれた。
「このカードの使い方はいたってシンプルですが、今は説明を省かせてもらいます。いずれ分かりますから、今聞こうと思っていならあきらめてください」
いたってシンプルなんであれば説明を省く方が無駄な気がするけれども、まぁいいだろう。
「今日は、もう家で休んでいてください。もうやることもないですし、やる必要もないですから。明日になれば、あなたの役に立つ一人、確実にあなたのことを知っている人物を一人この時代によこすことが出来ますから」
「確実に俺のことを知っている人物?」
「今ここでそれをばらしてしまったら、明日の楽しみがなくなってしまいますよ?」
……。
ジョンは、荷物をまとめ「それでは、また」と言って外へ出てしまった。ついていって、追求でもすればいいのに俺ってやつはついていくことをしなかった。なぜかは分からなかったけれどもそういう気分にならなかったのだ。もし、ここでついていくことをしていたのであれば何か変わったのかもしれない。だけれども、一時の気分と言うのは何かを変えるとことよりも重要なものなのだ。
さて、この時代にこの部屋に自主的に幽閉されてしまった俺だが、やることがないというのは当たり前だが死活問題だ。死活問題という割には生活は保障されているわけだけれども、やはりやることがないというのはとてもつまらないものだ。
つまらないことを延々と続けるつもりはないし、詰まるところ俺にはやる気というものが存在していなかった。はっきりと言って、ここまでやる気のないのは初めてだ。
元々いた時代では命を懸けて戦っていたから、やる気があるというよりかはいつも神経を張って生きて来た訳だし、2015年でもアルバイトという大きな仕事があったからしっかりとやる気のON・OFFがついていた。
だけれども、この時代に来てからというものやることがなさ過ぎてやる気がなくなり、やる気がなくなったことでやりたいこともなくなってしまった。どうすればいいんだろうかな。
どうしようもないと思うし、とりあえず今日は情報を集めることに集中したいと思う。人間とは危機に遭遇した場合に生き延びるにはすぐに行動をするのではなく、情報を集め集め集めまくり、厳正に判断し行動をする必要があるのだ。
そして、この時代を知るにはまず埃をかぶっているジョンの本棚から本を取り読むのではなく、文明の利器(この時代ではどうか知らないけれども)を利用してテレビを見て情報を集めることが得策だ。
テレビのリモコンを取り、テレビの電源を入れる。朝テレビをつけた時は、ニュースがやっていたが今はどんな番組がやっているのだろう。
『……どうもみなさんこんにちは――』
バラエティー番組それも司会者とゲストが二人で会話をするスタイルの中々奥の深い番組がやっていた。さすがに未来の芸能人の最近の話を聞いてもつまらないので、番組を変えてみる。やっているのは朝からやっている感じのニュース番組やどうもつまらないバラエティー番組だ。その中で情報を得るというんだったらやっぱりニュース番組ぐらいしかないだろう。朝はしっかりと見ることが出来なかったから、たとえつまらあいトークの言い争いを繰り広げていたとしてもニュースはニュースだ。コメンテーターの質でニュースの質が決まる昨今だが、どちらにせよ過去から来た俺にとっては新鮮なものだ。面白いとは思わないけどな。
『……最近話題の洋服のファッション』
『……新宿にて東京万博の会合が』
『……おいしい隠れ家料理店』
……お昼時とはいえ、ニュース番組としてこれはどうなのだろうか。多極でやっているバラエティー番組の方がまだ為になる情報を紹介している。2015年もそうだったが、もう少しニュースはニュースらしくするべきだ。
ただ、そんなニュースでも少しはこの時代について知れるものがあった。
さっきも出ていたが「東京万博」それに「文部科学省に新しい庁を設置する案」、「教育基本法の改正」などの時事ネタはそこはかとなく報道されていた。なので情報は少しだけれども集めることがでいた。これは本当に良かったことだ。




