第二百二十七巻目 ハハッ!
その後の会社の見学はいたって普通のもので、超光速研究室に比べると少し見劣りするものだった。ただ、見学を案内してくれている渡部さんの顔は案内が進むにつれてどんどんと良くなっていった。
「わが社は動物実験をしないことでも有名でして、環境にも配慮している企業として表彰されているんですよ!」
「そうなんですか」
「そうなんですよ! これは世界の研究所の中でも完全に動物う実験をしていないのはわが社だけなんですよ!」
「はぁ、そうなんですか!」
「そうです! あっ、次の場所は食堂になります。ここで昼食をとっていただいて今回の案内は終了になります」
「そうなんですか」
「はい!」
昼食をとるということは、もう昼になったのか。研究所にはなぜか時計がなく時間を確認することが出来なかった。ただ、会社見学を終わったとしても特にやることがない。むしろ、この時代でどのようにして過ごせばいいかは謎のままだった。
というか、俺はこのまま昼食を食べて帰ってしまってもいいのだろうか? ジョンの指示でこっちに来たわけだけれども、指示したジョンとはまだ会っていないしどうすればいいのだろう。
昼食をとるために行く食堂は中央新棟にあり、他の棟よりかなりきれいな棟だ。食堂が近づくとあまり会うことがなかった研究員たちや社員たちに出会うようになった。
「おう渡部、今日は藤巻さんと一緒じゃないのか?」
「よぉ渡部、藤巻さんの首輪はどこにつけてるんだ?」
道で会う人会う人、渡部さんをいじっていった。渡部さんは苦笑いをするが、足ががくがくになってしまっているのを見ると、渡部さんが彼女に対してものすごい恐怖心を抱いていることは分かった。
そして、その道で会う人の中に一人だけなぜだか見覚えがある人物がいた。
「オォ、ワタベサンハキョウモフジマキサンニカワレテマスカ?」
「タイ君、私は別に藤巻さんに飼われてないからね?」
「ハハッ! ジョウダンモヤスミヤスミイッテクダサーイヨ」
なぜだか、ちょっと渡部さんがうらやましいと思った。本当に何でかは分からないけれどもその片言の人と話しているのがうらやましく思えたんだ。
ただ、それ以外は何もなく食堂に着き、渡部さんが「これ、おいしいですよ!」と言われたものを社員用の食券で購入してA定食を食べた。食事の内容は百年前と変わらずおいしい料理だった。
A定食ももうすぐ食べ終わると言うときに、渡部さんが「ひぃいっ!」と悲鳴を上げた。食べることに集中していたので、久しぶりに渡部さんの方を見てみるとそこには青ざめあ顔で湯呑を持って固まっていた。そして渡部さんの後ろにいたのは渡部さんの肩をもみながらにやにやしている彼女の姿があった。
「おっ! 信長君。会社見学は楽しめたかね?」
「えぇ、それなりに楽しめましたよ。今も、楽しいです」
「それは良かった! 君は、もう帰宅するんだろ?」
「そうですね」
「なら、これを持って行きたまえ!」
と言って、彼女は持っていたバッグから小さな封筒を渡してきた。
「帰ったら家で見るといい。あっ、一応言っておくがいつもの家で大丈夫だからね」
「……わかりました」
深い意味はよくは分からなかったけれども、とりあえず封筒を受け取っておくことにした。




