二十四巻目 ・・・・・・限定版だったんです
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天正10年6月27日 清州
「やはり、三法師様でよろしいのではないでしょうかな?」
「そうです、権六様! 羽柴様の言う通りでございますよ」
「む、むぅ・・・」
むさ苦しい男たちが一同にかえし、小さな部屋にいる。そして、一番この中でむさくるしい男が、なんだかもどかしそうにしているではないか。
「しかし、秀吉よ! やはり、三法師様はまだ幼すぎや・・・」
「幼いからと言っても、このお方はお館様の嫡孫、信忠様の嫡男なのですよ。このお方こそ家督を継ぐにふさわしいお方ですよ」
「むぅ・・・」
権六と呼ばれる男は、羽柴と呼ばれる男に圧倒され言い返すことさえ出来なかった。
「権六、そろそろあきらめなさい」
権六に語りかえる声がある。
「し、しかし、これでは全く・・・」
権六はこそこそと話し返すが、その方向には誰もいなかった。
「権六様、何を先ほどから誰と話しておられるのですか?」
「いや秀吉これは・・・独り言だ」
権六の額には少し、冷汗がながれていた。
「そうですか・・・」
しかし、権六は羽柴とは違う方向に目線を向けている。
「?」
これに関しては、秀吉も疑問を呈していた。
「まぁ、これで三法師様に決定でよろしいですね」
これにより、織田家後継者争いに決着がついた。
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「そういえば何だけども・・・」
「はい?」
そういえば、彼女に名前を聞いていなかったな。まぁ、いま俺が考えていることはジョンに聞かれていると思うから、ジョンに答えてもらうか。
そう考えて俺はジョンのほうを見ると、奴は俺が作っていたぷらもでるを凝視しながら「こ・・・これは・・・・・・いったい・・・・・・」と、泣きそうになっていた。いったいどうしたんだろうか?
だけれども、こういう状況を考えるとジョンは俺の心を読んでいることはないだろう。
じゃあ、直接聞くことにするか
「あたどみき、あたどみきです!」
「えっ?」
「へっ?」
ちょっと忘れていたけれども、この子やっぱし心を読めるんじゃないのかな?
「まっ、まぁいいや。みきだね・・・いい名前だね!」
俺らしくない、ほめ方だな。まぁ、こういうときぐらいはこういうほめ方をしなくては、嫌われてしまうかもしれないからな。
「・・・全くらしくない言葉を」
「んっ? なんか言ったかな、みきさん」
「い、いいえ! 何も言ってませんよ!!」
彼女の言っていることに嘘はないと思う。俺がもともといた時代ではないのだから、少しばかり人を信じてやるのも、自分を守る得策ではないだろうか。
「ノブ、一体どういうことですか?」
「ん?」
ジョンのほうを向くと、すごい剣幕で、すごい顔を真っ赤にして俺をにらんでいるではないか。
「これを見てください」
ジョンが持っているのは、さっきまで俺が作っていたぷらもでるだった。
「ぷらもでるじゃないか。それがどうかしたか?」
「ノブ! あなたがいくらいい人だとしても、この件に関しては、私とて怒らずにはいられませんよ!!」
「ど、どういうことだよ?」
は、はじめてジョンが本気で怒っている。こんな姿を見るのは初めてかもしれない。
「・・・・・・限定版だったんです」
「えっ?」
「限定版だったんですよ! こ、れ、は!」
「なんだよ、げんていばんって?」
「もう・・・なんてことを・・・」
ジョンはとうとう泣き出してしまった。
「これをこんなところに出しておいた私が悪いんです。私が、こんなところに出しておいてしまったばかりに・・・」
ぶつぶつとジョンは言っているけれども、俺はちょっと理解することができなかった。
トントン。
「ん?」
肩を叩かれた。俺が気配に気づかないとは珍しい。
後ろを振り向くと彼女が、何か大きな箱を持って立っていた。
「信長さん、これをジョンに渡してくれませんか?」
これまた突然のことだったから、ちょっと動揺してしまった。
「ど、どうして?」
「これで、ジョンの機嫌が直るはずですから」
「そ、そうなのか・・・」
とりあえず、俺はその大きな箱を彼女から受けとることにした。
「早めに解決するほうが、あなたらしいですから」
なぜか、受け取るときにこんなことを言われた。いったい彼女は僕の何を知っているのだろうか?
とりあえずその後すぐにジョンにその大きな箱を渡した。
「こ、これは!」
ジョンはその箱を受け取るや否や、天に向かって叫んだ。
「限定版が手に入ったぞぉぉぉぉぉお!」
まぁ、ジョンが喜んでくれて俺もよかった。
騒いでくれたおかげで、げんていばんのぷらもでるの件はなかったことになったようだからな。
彼女のほうを見てみる。
「ねっ、いった通りでしょ?」
かわいい笑顔と声が、俺に言う。無邪気な笑顔が俺を包む。
いやぁ~本当に未来に来てよかったな!




