第二百二十六巻目 エンターキーを強く叩いて
「それでね、織田君。この装置というのは、渡部君の言う通り企業秘密の装置なんだ」
「企業秘密のものを俺に教えてもいいんですか?」
「企業秘密なんてものは所詮、他社にわざとばらすためにあるようなものさ。だからこそ秘密なんて言う言葉を使うんだから」
「はぁ、そうなんですか」
「そうなんだよ、織田君」
カタカタとキーボードを叩く文岡さんは、ちらちらとこっちを向きながら話してくれる。キーボードを叩くってこと自体が俺にとってはすごいことだから、それをこっちを向きながらでも出来るってのはすごいと思う。
「その装置の名前は厳密には違うんだが俺たちが呼んでいる名前は、時空時間転移装置と呼んでいる」
さっき渡部さんが言っていたことを、どうやら装置としてすでに完成させているらしい。文岡さんが、装置の名前を言ったとき渡部さんが「プフゥッ!」と空気を漏らして笑いそうになっていた。そう言うところを見ると渡部さんはまだ時間移動というものを信じていないんだと思う。
「渡部君に説明されて重複する部分もあるかもしれないが、俺も一応はこの部署の責任者として説明をしておこうと思う」
そう言うと、エンターキーを強く押して「はぁ……作業がようやく終わった……」と言って、自分で肩をもみ始めた。
「ようやく終わったんですか? 例の文書製作」
「そうだよ渡部君。俺は、何も超光速研究所の映像を見ているだけの研究員じゃないんだ! こうやって事務的に文章を製作しなくてはいけないんだよ」
「論文とは違うんですよね?」
「論文であれば優しいよ。これはお偉いさんに提出する資料だからねぇ~」
笑いながら言う文岡さんは、楽しそうな顔だった。
「それで織田君。まず俺が説明をしたいのは時間の移動についてなんだ……?」
「?」
文岡さんは説明を始めてくれたんだが、なぜか突然話すのをやめてしまった。渡部さんも突然文岡さんが話を止めてしまったことに「?」という表情を浮かべていた。
十秒ぐらい沈黙の時間が流れて、そしてその後「残念だなぁ」と言ってパソコンの電源を落として俺の方を文岡さんが向いた。
「残念だよ、織田君。俺は今から、一か月ぶりぐらいに外にだ掛けなくてはいけなくなってしまった。今すぐにという命令が下ったから、これ以上説明が出来なくなってしまった」
「そうなんですか……」
「いやぁ……本当に残念だよ。君はもしかすると、もしかしたからするから……本当になぁ……」
声を震わせて言ってくる。よくは分からないが文岡さんなりに俺に関して興味が湧いたんだろう。
「渡部君。俺は準備をしなければいけないから、織田君を他の場所に連れて行ってあげなさい」
「そうですね……分かりました。それでは、行きましょうか信長様」
そう言って、俺は渡部さんに連れられて外に出ていくことになった。外に出ていくとはっきりわかったが、パソコンの電源を落として画面が暗くなると、この廊下はとても薄暗くなってしまうんだな。




