第二百二十三巻目 炎の研究
エレベーターは当たり前だけれども完全な密室空間で、おまけに狭い。もちろん二人が並んでも余裕のある空間だけれども狭いというのには変わりない。それだから、二人だけだとどうも息苦しく感じてしまう。会話もなくあと一分間この状況を過ごすのは少し酷だといえる。
「時に信長様」
ふいに、渡部さんが話しかけてきた。話を切り出してくれたのは本当にありがたかった。
「何ですか?」 俺はにこやかに答える。
「どのようにして藤巻さん……藤巻と知り合いに?」
さん付けをしてして彼女の名前を言ってみるが同じ会社の人間にさん付けはどうかと考え、渡部さんは言いかえる。ただ、その質問に俺はどう答えればいいんだろう。どのようにして彼女と知り合いになったのか、どっちかっていうと俺が知りたいぐらいだ。
とりあえず言葉を濁す感じで「うーん……いつの間にかですかね」と答えておいた。
「いつの間にかで、あの人と知り合いにですか……すごい」
渡部さんは考える格好をして、顔も難しい顔をしていた。
難しい顔をするぐらいすごい人なのだろうか? 俺にはよく理解ができなかった。
「信長様。あの人は、信長様が知っていると思いますがすごい方なんですよ?」
「すごい方?」
「とぼけないでくださいよぉ、信長様! あの人は、あんな適当な感じに見えて日本科学学会の中では知らない人がいな程のマッドサイエンティストじゃないですか! それも、世間体に認められるマッドサイエンティストだから本当にすごいんですよぉ!」
「そ、そうですよねぇ!」
とりあえず話を合わせておくが、まっどさいえんてぃすとっていうのはよく分からない。
でも、渡部さんがこの上ない喜びの顔を見せているのから察するとなんかすごいんだろうな。
「僕は元々文系で本当だったらこの会社に行くこと自体間違ってるんですけど、就職先をどこにしようか迷ってた時にあの人がテレビに出て、それを見てここに就職しようと思って頑張ったんですよねぇ~」
「そうなんですか」
「それで、頑張って入社できたと思ったら希望職じゃなかったんでちょっとがっかりはしたんですけれども、そこから地獄が始まるとは……」
渡部さんが泣き始めてしまった。もう、この人は感情豊かで困るな。
「……とりあえず、信長様もわが社の力を見ていただきたいと思います」
渡部さんは、泣くのをやめてうっすらと涙目になりながらそう言った。
「分かりました」
とりあえず、同意だけしておこう。
「ところで、信長様はどのような研究をしているんですか? 藤巻といつの間にか知り合いになったにせよ科学系の研究はしていると思うのですが」
科学系の研究なんてしたことはないけれども、俺は適当に答えてみる。
「主に、炎の研究を」
「おぉ、それは素晴らしい!」
渡部さんが笑顔で答えると、エレベーターが「十階です」とアナウンスをして扉が開いた。




