第二百二十二巻目 1980年
「いや、本当お待たせしてすみませんでした」
歩きながら渡部さんが謝ってくる。
「何を謝っているんですか、渡部さんはなにも待たしてはいませんよ」
「ありがとうございます……」
なぜか今度は涙を流しながら、感謝をされる。感謝されるといつもはうれしいけれども、どうもこの感謝は素直には受け止められないな。ただ、ここは流しておくことにしよう
「信長様、まずご案内いたしますのはこの施設の中でも重要研究の一つとして取り上げられている超光速実験室です。この実験室では、実験室と名がついていますがここでは静岡中央研究所の制御を行っているだけです。なので制御中の風景をご覧いただこうと思います」
はっきりと言って、興味をそそられる内容ではないが暇をつぶすにはちょうどいいだろう。
ただ、なんだろう。ちょっとした疑問が俺にはあった。
「その……渡部さん」
「何でしょうか?」
「俺があのセントラル会議室に行くときに案内してくれた男の人は、誰だったんですか?」
俺がそう聞くと、渡部さんは青白い顔をしてしまった。だから、「いや……何でもないです」と言って、それ以上聞くのを止めた。やめたことによって渡部さんがため息をついて「よかった」と言って普通の顔に戻ってくれた。
超光速研究室は渡部さん曰く「南棟十階の奥の部屋」らしいので、まずエレベーターに乗って地下一階まで下りた。そこから地下の通路を通ってまた違うエレベーターに乗った。
そのエレベーターはさっき乗ったエレベータより古く、さびていた。
「どうぞ」
開くボタンを押しながら、渡部さんはエレベーターにはいるように促す。エレベーターの中は緑色の床と緑色の天井で奥には鏡があった。
昔のエレベーターのようだけれども、よくよく考えてみればここは百年後の世界だから昔のエレベータだとしても、俺にとっては未来のエレベーターなのだ。
中に入った瞬間エレベーターが下にずっと下がったけれども、そこには目をつむることにしよう。
「さぁ、ここから十階に参りますが、少しこのエレベーターが旧式なもので時間が一分少々かかってしますので悪しからず」
渡部さんは笑いながらそう言ってくる。そう言われると少し気になったので、エレベーターの製造年について聞いてみることにした。
「えっ? このエレベーターの製造年ですか? 確か上の方に書いてあった気が……あっ! 1980年ですね! すごい古いですねぇ」
これは、百年前でも古いな。たとえ補強工事をしていたとしてもなんでこのエレベーターをまだ使っているんだか。相当この施設の管理者が変わり者なんだろうな。




