第二百二十一巻目 面白半分で総務課いれた面白い子
「信長君! 彼の名前は渡部君だ。総務課の新人で、本当は中央課に入りたかったんだけれども、私が面白半分で総務課にいれた面白い子だよ!」
笑いながら彼女は話してくるけれども、その内容はかなりえぐいものだった。面白半分で総務課に入れるとはなんと恐ろしことだ。
「お久し……ぶりです、藤巻さん」
「久しぶり、渡部君! さすが私の犬ね、電話したら駆けてすぐに来てくれるなんて」
「すぐにいかないと、よく分からない仕事を押し付けてくるじゃないですか!」
「あら? 私は普通の仕事をあなたに渡しているだけよ?」
「それはありえません。東京都上空に謎の飛行艇の大群が武装をして侵攻中だから、神奈川県鎌倉市にあるどこかの海岸でガラスのようなきれいな石を採取して、それを分析した結果を報告しろっていうのは、普通の仕事と言えますか?」
「仕事というのは何も君が求めている真面目なものばかりではないのだよ。仕事を与えられたら、それはどんな仕事であっても普通として勤めなければ」
「そんなのは屁理屈ですよ」
「まったく……君は本当にいじめがいがある奴だ。そんなに嫌なのであれば、転職するというのも手だと思うけれどもなぁ」
「僕のような奴が転職できる会社なんてありませんよ。あなたが僕をいじめるために僕を入社させたようなものなんですから」
「自らの立場を理解出来ている分かりのいい子は、優秀な人材になれるよ」
「優秀な人材になれると思うのであれば、今すぐ総務課から中央課に異動させてくださいよ!」
「あら? もう自分の立場を忘れてしまったのかい? 君は私のおもちゃだ。おもちゃは素直に従っていればいいんだよ?」
「……」
「うちは、そこら辺にあるありふれたブラック企業とは全く違うからね。むしろ厚労省から表彰されるようなホワイト企業じゃないか! 少しぐらい、玩具にされているからと言って絶望しているだけ無駄だと思うよ?」
「……この会社の社長が厚労省の大臣と親しい仲なだけじゃないですか」
「真実というのは、いつも作られていくものなんだよ? それが分からないと、真実を見抜けなくなってしまうよ」
フフフッと悪い微笑をして、渡部さんをいじる彼女は恐ろしい。渡部さんも冷静に言葉を返してはいるけれども、足はがくがくと震えた。まるで生まれたての小鹿のようだ。息切れしていた渡部さんは話すことによって呼吸を整えて、汗をかいていた額もいつの間にか汗がひいていたいた。
「あっ! 信長様、それではご案内をさせていただきます、よろしくお願いいたします」
「あぁ、よろしくお願いします……」
「それじゃあ、楽しんでくるといいよ信長君! 渡部君、しっかりとご案内しなさい」
渡部さんは「行きましょう」と言って、逃げるように案内を始めてくれた。そして、俺は案内に従い部屋から出て歩き始めた。やっぱり、無機質な廊下は少しつまらない。
「――――ジョン、やっぱりあの子は違うね。私たちが求める織田信長ではないよ」
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