二百十六巻目 うれしいような、うざいような気持ち
さて、こんな大きく変わってしまっているとなると中には入りずらくなってしまう。それに株式会社と書いているからには、会社というわけだ。ということはこの中には会社員の人が今精一杯働いていて、さらには部外者を受け入れる体制なんて受け入れていないと思う。そんな感じなのに、こんなラフな格好をしている人間がその中に入れるとは到底思わないのだ。
ただ、ジョンに言われたことを実行しないのも嫌だし、何もせずによく分からない時代に取り残されるわけにもいかない。だから俺は覚悟を決めた。
戦場に行く時と同じ気持ち。戦場に行くときは血なまぐさいにおいがするけれども、今は秋のにおいがする。においだけはいいものだ。
自動ドアの前に立ち、自動ドアが開くのを待つ。だけれども、自動ドアは一向に開かずただ茫然と立ち尽くしているだけになってしまった。そして俺はあることに気が付いた。
「あっ、開かないなら開ければいいのか」
言葉に騙されてはいけない。壁を打ち壊すには、自らの手で打ち壊すに限る。
自動ドアを無理やり開いてみると、外よりも温かい空気が流れ出てきた。外の空気は秋ながらの寒さが熱い太陽に照らされて快適な温かさだったけれども、この中から流れ出てきた空気は眠くなってしまうそうな空気だった。中に充満していた空気がだから少し濁っているようにも感じた。簡単に言うと、会社の空気と言った感じだ。
ただ、自動ドアは窓ガラスだけれどもマジックミラーになっていて中が見えないようになっていた。だからこうやって開かないと中の状況を確認できなかった。
そして、人ひとりが入れる程度に開き、中を見てみるとそこにあったのは受付と書かれたプラカードが置かれたカウンターとその後ろで座っている白い服を着た女性だった。これが俺の知っている人というんであれば、俺が忘れてしまった人だ。まっ、正直な話会ったことがないというのが真実なんだけれどもね。
とりあえず、中に入るのも気が引けるので外と中のちょうど中間のドアの間で立ってみた。すると怪しいと思ったのか、受付のところで座っていた女性が「あの」と言ってきた。
きっと俺のことだろうと思いこの場所から「なんですか?」と聞いてみた。
「あなたは織田信長さんですか?」
これまた、すごいことを聞かれるもんだ。いきなりあった人間に織田信長ですか? と聞いてくる女性はあまりいないだろう。
ただ、俺はこの問いに一つだけ答えを持っている。
「はい、そうです」
多分これも、ジョンが仕組んだことだろうな。まったく、人の心を弄びやがって……こんな感じはなんだか懐かしいよ。
うれしいような、うざいようなこの気持ちは。




