第二百十五巻目 後編 研究所はここにはない
来た電車には国旗のマークがついていて、昔の会社のロゴマークは消滅していた。電車に乗り込んでまず驚いたのが座席がしっかりと座る形のものから、ほとんど立った状態で腰を掛ける程度のものに変わっていた。いつも利用している路線が通勤路線だということは分かっていたけれども、もしかして立つ人の数を増やすためにこういう風にしたんだろうか? ただ今は朝方でも、通勤時間をうまくかわした時間だ。だから座席にはいくつか空席があったので、少し腰かけてみることにした。座り心地はなかなか良かったけれども、座り心地と言ってるもの、の座っている感じはなくてちょっとした壁に寄りかかっている感じだった。寄りかかる壁としては、ものすごくいいものだったことは感じられた。
電車から眺める景色は、これまた家から見る景色と同じようにかなり変わっていた。高層ビル以外にも、なんかよく分からない構造物、芸術品、タワーに建っていた。
高層ビルだけだと実感が湧かなかったけれども、そういうのを見るとなんか未来に来たなぁという実感が湧いてくる。形が前衛的というか、丸みを帯びていて色合いもなんか冷たく、ガラス張りのビルもさらに冷たく見えた。未来らしいといえるだろう(百年前の視点で見れば)
秋葉原までの電車の所要時間は変わらず、普通に秋葉原に着いた。言い忘れていたけれども、ホームも少しきれいになっただけで大改造はされていなかった。秋葉原に関していえば、よくわからない迷路みたいな構造が解消されて、百年前から来た俺は逆に迷子になりそうになった。ただ、帰りは迷わなくて済みそうだ。
ここからかなり歩けば、ジョンの言っていたあの場所に行けるけれども、少し秋葉原を散策してから行こうと思う。どうせ、待っているのは俺の知っている誰かなんだから、少しぐらい待たせても許してくれるだろう。きっと。
まず、最初に行った場所は米宮ビル。ここの地下で、戦国ロリポップが講演を行っていたわけなんだけれども……
「まぁ、仕方がないよな」
米宮ビルは、新米宮ビルとして生まれ変わっていて、戦国ロリポップのせの字もなくなっていた。悲しいけれども、これが時代の流れというものだ。
少しナーバスな気分だけれども、ほかに行くところもなくなってしまったから研究所に行くことにする。
――――
研究所までは時間がかかってかなり歩くので疲れると思ったけれども、違った。秋葉原だけなのかもしれないけれども、普通の歩道に歩く歩道の整備がされていて、電気街を抜けるまではそれを乗りつないでいった。だから時間も短く、疲れも少なく済んだ。うれしいことだ。
研究所の近くに着いたので、研究所の周囲をじろっと見てみるとやっぱりこの研究所も百年前と少し変わっていた。百年前はしっかりとした壁で囲まれていたけれども、今は研究所の建物が見えるぐらいのフェンスに変わっていた。
神様が侵入しようとしていろいろやっていた場所に向かうと、そこは施錠もされていない窓ガラスの自動ドアになっていた。会社名のようなものも書いてある看板が隣に書いてあった。
「中央化学研究株式会社?」
どうやら、俺が知っているあの研究所はここにはなかった。
いったい、どうしてしまったんだろう。




