二十二巻目 ジョン、包丁を持ってこい
「恨んでいる人か・・・」
恨んでいる人・・・。恨むということ自体俺には無い感情だからな、そんな人は居ないのかな?
「本当にそうなんですか?」
「えっ?」
「えっ?」
あれ? 俺、独り言してたのか? 俺、ずっとぶつぶつと「恨むということ自体俺には無い感情だからな」とかを言っていたのか? 無意識のうちに?
そろそろ俺もやばいかもしれないな・・・。
「いや、ノブ。あなたは独り言など言っていませんよ。まぁ、やばいのは事実ですけれどもね」
「はぁ? ちょっと待てよ。ヤバイってどういうことだよ・・・ってやっぱし、独り言してなかったよね」
「はい、そうですよ」
ジョンはそういうと彼女のほうに目線を向け、「なぜ、心を読むことができたんでしょ~ね~ぇ」と悪い笑顔で聞いてくる。
「えっ、いや、そのっ、えぇ・・・っと・・・・・・」
彼女は困惑し、俺のほうを見てくる。
――これは、俺に助けを求めているのか?
もし、助けを求めているのだとしたらこれは絶好の機会ではないのか? ここで助けたら、もしかしたらもしかするかもしれない。
「よしよしよし・・・。このままいけば、俺は・・・俺は・・・・・・」
「ノブ、今度のは筒抜けですよ」
独り言を聞かれるのは恥ずかしいものだな。そう考えつつ、俺は頬を染めた。初めてのことだった。
「というか、ジョン。あまり彼女を困らせるなよ」
「あなたの欲望のほうが、彼女を傷つけそうですけどね」
「俺は、欲しいと思ったら手に入れる主義なんだよ」
「そういうところが、魔王といわれる由縁なんですよ」
「それは違うだろ!」
激しい言い争い。これはまさしく、あの時と似ている。しかし、ここまで激しい言い争いがあるだろか。ここまでくだらなく、ここまで守りたいものがある争いは初めてだ。
「二人ともやめてください! 騒がしいです、ご近所迷惑も考えてくださいよ」
彼女は、激昂した。その声は本当の怒りを表しているようだった。
俺とジョンは、その声に驚き「ご、ごめんなさい」と涙声で謝罪をした。
「分かればいいんですよ、分かれば」
彼女は、かわいい笑顔を作りながら首を立てに振った。通常時なら、こんなかわいい笑顔を見たのならすこし発狂してしまうかもしれないけれども、今はそんな笑顔も少し、ものすごく怖く、恐ろしく感じる。
「本当にすみません!」
「私も、少し冷静さを失い調子に乗っていました」
「えっ?」
「ジョン、包丁を持ってこい」
「なぜですか、ノブ?」
「これは、もう腹を切って詫びるしかないだろ」「それなら、私拳銃を持っていますので貸しましょうか?」「けんじゅうって何だ? まぁ、いい。誠意が伝わるものならばいい」
「ちょ、二人とも!」
「だけれども、それはどんな感じなんだ?」「人によっては、楽らしいですよ」「そういうことを聞いているんじゃない! 美しいかどうかだ」「死に美しさを求めてどうしますか、子の馬鹿ノブ」「誰に、馬鹿っていってるんだ?」「あなたですよ、あなた」「この南蛮人風情が、調子こきやがって」「私は未来から来たアメリカ人です! 南蛮人と一緒にしないで句ださい」「なんだと、この」「なんですか!」 ・・・・・・・・・。
言い争いは過激的になり、着実だが口調もひどくなっていった。




