第二百十巻目 日本語でしゃべらなきゃ
研究所の中というのは、ホルマリン漬けが置いてあるわけでもなく、怪しげな笑い方をする研究員がいるわけでもなく、どこにでもあるような会社の設備が施されていた。
エントランスもあり、応接室もあり、自動販売機もあり、なんなら食堂もある。そして、敷地面積が広いので設計をする時に遊び心を利かせたのだろう。中庭なんかもこの研究所には存在してみな研究が終わったり一息入れるときにはよく利用をしている。
さっきから言っている通り、研究をしているということは研究室というのが存在するわけだ。この研究所には研究室が大小合わせて100室以上存在し、小さな計算の研究からブラックノートに載せるための研究が行われている。それなので研究員もそれなりの人数がいる。
この研究所は公には国立総合研究所とされているが、実際には国単位で研究をしているのではなく国連が中心となって作られている。ということで、ここにいる研究員というのは世界中から集められたその道の最高の研究員ということだ。
その研究員の中に、片言で日本語をしゃべる彼がいるというわけだ。
国立総合研究所と題されているわけなので、たまに研究の成果(もちろんこの時の研究の成果というのは小さな研究の成果である)を公に公表したりしている。その時は、研究者が代表となって発表するわけで、その発表が英語やフランス語などの外国語であってはいけない。だって、国立と銘打っているわけなんだから国の機関が日本人用に英語やフランス語で成果を発表するわけにはいかないだろ? だから、この研究所にいる研究員はたとえアフリカのどこかの少数民族出身であっても、言語のない国から来たとしても、宇宙からやってきたとしても、日本語で会話をしなくてはいけないのだ。もちろん、日本語で話さなければいけない理由というのはそれだけではない。研究を円滑に進めるために言語を統一しているというのもある。
ただ、いきなり外国人の研究者に「日本語で話せ」と言って研究者が「わかりました」といえるはずもないので、まずここに入所した研究者はちょっとした日本語の研修を受けることになる。
藤巻は、その日本語の研修の監督として国立品川大学から派遣されてきたというわけだ。
そして藤巻は、ジョンがこの日本に来た時からホームステイ先としてジョンに接してきた人間なのだ。
「いいかいジョン君、もうここは研究所だ。だから、君は今から日本語でしゃべらなきゃいけないのさ」
「ソーデスネ」
「まず、君が研修が終わった後に仕事をする研究先に向かうから、覚悟だけ決めておいてね」
「ワカリィマシタァ」
まず彼らは、ジョンが研修し終わったときに向かう、第32研究室へと向かうことになった。




