第二百一巻目 コーヒーカップ
ここで一つ俺は考えた。実はジョンがわざと俺の部分だけ消しているのではないのか? ということをだ。もちろん、その考えはNOだ。そんな事をジョンがするわけがない。やったとして、ジョンに利益があるとは思えないしそもそも俺がこんな風にいじらないと分かることもなかった。だから、そんな消しても意味がない。
「だったら一体、何なんだろうな……わけが分からないよ」
一体どうなってるんだ? 俺の存在は、日本史の中でも大きく取り上げられてるし、現代の日本人であれば俺のことを誰でも知っているはずだし、日本史の中でも本能寺の一件は最大のミステリーとして取り上げられている。それであれば、教科書に乗っていないはずがないし、むしろ教科書に乗っているのが当たり前だ。それなのに、なんで乗っていないんだ? 織田信長が嫌いな教科書だから乗っけていないのかもしれないな……それであれば、教科書としてどうなんだろうな?
考え続けるともっとわけが分からなくなってしまう。一体どういうことなんだ? なんで? わけが分からない。 本当にわけが分からない……。
「本当にどういうことなんだろ」
わけが分からない。考えたところで結論が出ないし、例え結論が出たとしても俺は悩み続けるだろう。日本史は、日本の歴史は俺の存在を消したいのか?
まさか、そんなことがありえるとは思えないけれども、ジョンがもしこのことについて知っているんであれば、今度聞いておかなければいけないな。
―――今俺は、ものすごく震えているんだ。自分の存在を否定されたようで、自分の生きていた証を消されたようで本当に怖くなる。
一体、俺は何なんだろうか。この時代の俺は一体何なんだ?
※※※※
「さて、今日やる実験というのは、先ほど説明したIfネットワークを利用した実験です。私も未来の科学者ですから、積極的にこういったいいものは使っていきたいんですよ」
「ほう」
コーヒーがもう入っていない空のコーヒーカップの内側を覗きながら偽美希は適当に返す。
「この実験は、本当であればあなたが今は言っている体の持ち主である本物の美希に行う予定だった実験だったんですが、仕方がないでしょう」
「その実験っていうのは、何が目的なんだ?」
「さすが、そこに気が付くとはあなたは優秀ですね」
「南蛮人に褒められても、なにもうれしくないわ」
「あなたの頑固さも、そこまでいけば素晴らしいものですよ」
ジョンは笑い「コーヒーもう一杯飲みますか?」と聞いてきた。
「あぁ、もちろん。もう一杯頂こう」 偽美希はうっすらと笑いながらコーヒーカップを渡した。




