百九十九巻目 手に取るようにわかる
「今日はあなたの思いをくんで、この話をするのは辞めることにします。それに今日は、他にもやることがありますからね」
「他にやること?」
「そのために、今日はこの研究所にあなたを連れてきたんですよ?」
「いったい、俺に何をするっていうんだ」
偽美希は椅子にあぐらをかいてビスケットをかじる。
「まぁ、実験を始めてからのお楽しみということで」
「やっぱり南蛮人は信用ならんな」
「だから、私はアメリカ人です!」
「知らんな、俺には南蛮人もあめりか人も同じさ」
※※※※
「遅い……」
ミスター安藤は指定した時間になっても帰ってこなかった。もしかしたら、俺の存在を忘れて昼飯を食べた後何か作業を始めてしまっているのかもしれない。それだと、俺は一体何のためにアルバイトを休んでいるのか分からなくなってしまう。自分が教わる側だということも自覚しているし、教わる側は教える側よりも立場が下だということも理解はしている。さらに言えば無理やりお願いしているということもだ。だけれども、一度受けたことなのであれば、それは成し遂げてほしい。せめて、一声「今日はもういけなくなってしまったから自分で何かをやれ」と言ってほしい。それなのに、彼は何も告げづに消えてしまった。こんなにも、男を待ち焦がれたことはない。初めての感覚だ。
……ただ、何もしないわけにはいかないから自習という形でいろんなことをしたさ。最初のうちはミスター安藤が書いた短い文章を読み、自分の中で色々な解釈をしてみて、ミスター安藤が言っていた問題の傾向に沿う形で答えを導いてみたりした。それでも暇だったから、ジョンの本棚にあった、日本語で書かれた厚みのある小説を読んでみたりした。あいつ、あんな適当な感じで『日本の金融論』とか『人を見る』とか中々難しそうな本を読んでいる。やっぱり、根は頭の良い人間なんだろう。もしかしたら頭が良すぎてねじが吹っ飛んでしまったのかもしれないな。いや、ねじというか存在がぶっ飛んでしまったのかな? 性格もそうだけれども、もっと中にある大事なもの……もっと素のジョンを見てみたいんだよな
ただ、そういう本を読んでいくと知識が深まっていくのも実感するし、現代的な文を読み込むことによって読み進んでいくごとに読みやすくなっていく。これが不思議なことで、最後の方にすらすらと読めてしまうんだ。自分でもびっくりしたよ。初めて現代的な文を見た時はイラついたけれども、今では読みやすいんだ。作者の気持ちが手に取るようにわかるよ。
次回は二百巻目です。総合評価もようやく100言ったので、これはもう特別編を書かなくてはいけませんね。




